第10話「デート -美桜③-」
「……はぁ、もう分かったから」
あらぬ誤解を受けていると判断した俺は、さっき北条が話してたことは言葉の綾だということを、これでもかと言うほど丁寧に説明していた。
先ほども北条絡みで柚希を怒らせたばかりだし、そう何度も同じ展開を起こすわけにはいかない。
そんな思いが通じたのか、はたまた俺の必死さに呆れたのか。一度大きく溜息を吐き、納得してくれた様子の美桜。
「と、とりあえず時間も無いし、買い物続けよう。……な?」
「……ふーん、その様子だと何を買ってくれるのか決めたみたいね」
「おう、喜んでくれるかは分からないけど、とりあえずは」
北条の言うことが正しければ、だけど。
「意外と自信満々ね……。なら、少しは期待して待っていようかしら」
こうなってくると、もう北条を信じるしかない。
確かに、女性へのプレゼントにアクセサリーをチョイスするのは、あながち間違いって訳でも無いだろう。
変に奇をてらった物を選ぶよりは、安心のはずだ。
……ただ、それを美桜が喜んでくれるかってのが分からない。ここが唯一の問題で。
普段美桜がアクセサリーを付けているところなんて見たことないし、そういうのに興味が無いのだとばっかり思っていたせいで、どうもいま一つ自信に欠けるというか。
「じゃ、行きましょ?」
──ええい、もうなるようになれだ!
◇
「で、どこに向かうの?」
とりあえず歩き始めたものの、美桜の最もな質問を受け、思わず足が止まってしまう。
……どこへ向かえばいいんだ?
そもそも俺はアクセサリーなんて興味の欠片も無いし、もちろん今まで誰かにプレゼントしたこともない。
つまり、こういう時にどんなお店へ向かえば良いのかなんて、分かる訳もなく。
と、悩んでいると。
『北条舞:橘君! ちなみにこの辺でお勧めのお店はココだから! 値段もそんなに高くないし、きっと美桜ちゃんも喜んでくれると思うよ!』
そんなLINEが飛んできた。
お勧め……これは正直、めちゃくちゃ助かる。
『橘優斗:スマン北条、助かった』
『北条舞:良いって事よ! ……ちなみに聞くけど、お礼として今日の出来事を新聞に載せたりは……』
『橘優斗:絶対に止めてくれ』
『北条舞:にゃははー、そうだよね。んじゃーこのお礼は、また別の機会に返して貰うことにしようかな』
可愛らしい猫のスタンプと共に、北条との連絡が終わった。
お礼か……嫌な予感しかしないけど、まぁ今回ばかりはプレゼント選びから場所まで教えて貰ったし、いずれ何かしらで返さなければならないだろう。
……変なことじゃなければ良いけど。
「……優斗? どうしたの、渋い顔して」
「いや、何でもない。ほんと、何でも……」
そうして、ひとまず北条がお勧めしてくれたお店へと足を運ぶのであった。
「……ここって」
「あー、美桜が喜んでくれるかは分からなかったけど、プレゼントはネックレスにしようかなと思って。……その、一応北条にも相談して決めたんだけど」
本当ならジュエリーを買うのが一番良いんだろうけど、流石に高いしな。
さて、肝心の美桜の反応だけど──。
「ふーん、そっか。……そっか」
お、感触は悪く無さそうだ。
「ま、優斗が選んだものにしては悪くないわね! うん、合格をあげてもいいかな」
「そっか、とりあえず喜んでくれてるみたいで良かった」
本当に安心した。
「じゃ、後は優斗が何をチョイスするか、ね」
「え?」
「当然でしょ? まさかお店を選んではい終わり、なんて言うつもりじゃないでしょうね?」
いや、そう言うつもりだったんですが……。
「まさか実際に買うものも俺が選ぶのか?」
そう尋ねると、今日一番の笑顔を見せ。
コクリと頷くのであった。
◇
「ありがとうございましたー」
結局、三十分以上かかってようやく購入するものが決まった。
普段こういう買い物をしたことが無いってのもそうだけど、肝心の美桜がどんな物を好むのかとか、全く分からなくて本当に苦戦したというか……。
「というか、本当にそれで良かったのか?」
そうして悩んだ末に買ったのは、ピンクを貴重とした桜がモチーフのネックレス。
実は最初に見たときから、何となく似合いそうだなとは思っていたんだけど……いかんせん、桜がモチーフということで。
「美桜の名前にも入ってし、それはどうかと思ったんだけど……」
美しい桜と書いて、
何となくシャレっぽくなってしまうなと思いすぐに候補から除外した商品だったが、最終的に美桜本人が最初のやつが良いと言ったので、結局これを買うことになったのだ。
俺があまりにも迷いすぎたせいで気を使わせてしまったのではないか、そう心配になって思わず尋ねる。
だが、当の美桜は。
「ううん、これで良いの。……いやこれが良い、かな?」
と、満足げな様子。
ふーむ、まぁ喜んでくれてるならとりあえずは良かったのかな。
「……ふふっ」
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