第9話「デート -美桜②-」

「プレゼント?」

 食事を終え、これからの予定を考えている時。

 そういえば柚希にはプレゼントを渡したけど、美桜にはまだ買っていないなということに気がつき、買い物に行こうと提案したのだった。

「そりゃ買ってくれるのは嬉しいけど……良いの?」

「ま、そんなに高いものじゃなかったらな。いつも世話になってるし、そのお礼って訳じゃないけど」

「そ。それならありがたく貰っておこうかしら」

 と、偉そうな口ぶりで返答しているが、どことなく嬉しそうな表情になっているのを俺は見逃さなかったぞ!

 二人分のプレゼントで出費は大きいが、喜んでくれるならそれもまぁ良いか。

「それで美桜は、欲しいものとかある?」

「欲しいもの? うーん、改めて聞かれると難しいわね……」

 と、悩む素振りを見せる美桜。

 急に欲しいもの、と言われても難しいか。

「ちなみに、柚希には何を渡したの?」

「ん? 腕時計だけど」

「腕時計、ね……。それはどっちのチョイス?」

「あー、俺が選んだよ」

 まぁ選んだというよりは、無理やり捻り出したって感じだけど。

「ふーん……。よし、決めたわ」

「お、決まったか。何にする?」

「優斗に決めてもらうってことを決めたの。私のプレゼント、選んでくれる?」

「選ぶって……俺が?」

「そうよ、柚希のプレゼントは優斗が選んだんでしょ? なら私のも同じように選んでくれないと不公平じゃない?」

「不公平って、お前……」

「良いから、とりあえずお店に向かいましょ?」

 そう言いながら、俺の手首を掴んで引っ張っていく美桜。

 また俺がプレゼントを選ぶのか……。



「ふーむ……」

 色々なお店が立ち並ぶ繁華街へとやってきた。

 さっきのショッピングモールと違い、店の数も種類もかなり豊富なんだが……逆に選ぶのが難しいぞこれ。

 そもそも柚希のプレゼントにしたって、奇跡的に本人は喜んでくれたみたいだけど、その場の思いつきで決めたわけで。出来れば本人が欲しいものをプレゼントしたいところだし、美桜が何を貰って喜ぶのかってのも正直分からない。

 いや、まず同年代の女の子が欲しいものって何なんだってところから始まるわけなんだが……。

 と、頭の中で必死に考えながら並んで歩いていると──。

「おろ? また会ったね、橘君!」

 つい先ほど聞いた気がする、悪魔の声が聞こえてきた。

 ……この声、まさか。

「あれあれあれ~? さっきは柚希ちゃんと一緒だったのに、今度は美桜ちゃんと一緒ですか~?」

 声の主──北条舞は、随分とにやにやした表情を浮かべ、こちらの様子を伺っていた。

 つい先ほどショッピングモールで別れたはずなのに、何故こんなにも遭遇してしまうんだ!

「あら、舞じゃない。偶然ね、こんなところで」

「うんうん、偶然だよねっ! いや~、何か良いネタが無いかと街を歩いてたら、こんなにも偶然の出会いが続くなんて……!」

 随分と迷惑な偶然があったもんだ。

「おい、北条。分かってると思うが……」

「分かってるって、美桜ちゃんとも付き合ってないんでしょ?」

「ああ、分かってるなら良いんだけど……」

 さっきの必死さが伝わっていたようで良かった。

「付き合う? 何の話?」

 だが、先ほどのやり取りを知らない美桜は、俺たちの会話を聞いて疑問に思った様子。

「いや、何でもないんだ。北条とはさっき柚希と一緒の時も出会ったんだが、その時に色々と誤解があってな」

「そうそう、誤解が……ね?」

 おい、その「私は全部分かってるよ」って顔は止めるんだ。

「ふーん、誤解ねぇ。まあ別に何でも良いけど」

「そうしてくれると助かる」

 いろんな意味で。

 と、その時。


 "ピリリッ"


 美桜の携帯から、着信音が鳴り響く。

「──お母さんから電話みたい。優斗、ちょっと待っててくれる?」

「ああ、分かった」

「もしもしお母さん? どうしたの──」

 おばさんからの電話で、一旦席を外す美桜。

 結果的に、北条と二人で取り残されているわけだが……そうだ。

「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いか?」

「ん? 別に構わないけど、どうしたの?」

「いや、実は──」


 美桜にプレゼントを渡そうと思ってること。俺が選ぶこと。だが、何を喜んでくれるか分からないということ。

 それらを簡単にまとめ、北条に相談を持ちかけてみた。

 美桜とはクラスメイトで友達みたいだし、もしかすると何かヒントをくれるかもしれない。


「んー、なるほどなるほど」

 俺の話を聞き、頷くようなしぐさを見せる。

「そういえば美桜ちゃん、この間私が貸した雑誌をジーッと見てたような……」

「雑誌?」

「そうそう、思い出した! 確かジュエリー特集のページを熱心に読んでたよ~」

 ジュエリー、か。

 いわゆるネックレスとか、そういうので良いのか?

「なるほど。……けど、美桜ってそういうのあんまり興味無さそうだけど……」

「甘いっ! 甘いよ橘君っ!」

 俺がそういうと、急に声のトーンが上がり始めた。そのまま俺を指差し……って、急にどうしたんだ。

「女の子はね、誰だってそういうのに憧れるものなの!」

「……そ、そうなのか? けど、あんまり高いものは……」

「分かってないなぁ橘君は。良い? プレゼントってのは、値段じゃないの! 誰がプレゼントしたか、それが重要なんだよ!」

「はぁ……」

「だからね、あれこれ考えてないで、橘君が美桜ちゃんに一番似合うと思ったものを直感でプレゼントしてあげれば良いの! 分かった?」

「お、おう……まあ何となくは」

 本当に何となくだが。

「──お待たせ……って、盛り上がってたみたいだけど、何を話してたの?」

 北条から説教(?)を受けていると、美桜が戻ってきた。

「ちょっと橘君に女の子ってものを教えてたんだよ!」

「……優斗、何を話してたの?」

 北条の言葉を聞き、訝しげな表情を浮かべる美桜。

 ちょっと待ってくれ! 別に変なことは……!

「じゃ、頑張ってね橘君~!」

 最後の最後に爆弾を投下し、サッサとどこかへ行ってしまった。

 おい! せめて説明だけでも……おーい!!

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