第5話「デート -柚希①-」

「ちょっとお姉ちゃん!」

 普段温厚な柚希が、顔を真っ赤にして怒っていた。

「二倍って言ったのに、それはやりすぎだから!」

 それに対し、素知らぬ顔でごまかそうとする美桜。完全に立場がさっきと逆である。

「ゆ、柚希……とりあえず落ち着いて」

「優斗君もだよ! 流されやすい性格なんだから……!」

 仲裁に入ろうとすると、今度は怒りの矛先がこちらに向いてきた。

「まあ確かに、優斗は流されやすい性格よね。さっきだって、柚希の言いようにされてたし……」

 すると、美桜までそれに乗っかってきて。

 って、何で俺が攻められてるんだ!?

「思えば小学校の時も……」

「そうそう、それから中学校も……」

 そのまま何故か俺に対する不平不満のぶつけ合いが始まってしまった。二人の怒りはどこへやら、すっかり別の話題で盛り上がっている。

「あ、あのー……」

 俺の言葉は届くことなく、そのまま黙って二人の会話が終わるのを待つことしか出来なかった。


「さて、一通り話したし……」

「そうだね、お姉ちゃん。まだまだ喋りたいことは沢山あるけど……」

 やがて、二人は何かを思い出したかのように、俺についての話を終了させた。

「ねえ優斗君、今日は何か予定ある?」

「予定? いや、別に無いけど……」

「そう。それなら良かったわ」

 何故か俺の予定を確認する二人。今日は誕生日ってこと以外特別何かある訳じゃないしな。

 と、それを聞いた二人は、何やら息を合わせ──。

「じゃあ優斗君、早速だけど」

「私たちと、デートしなさい」

 そう、力強く言葉を告げた。



「じゃ、準備したら呼ぶから」

「ゴメンね、少しだけ待ってて」

 有無を言わせないまま、二人は伝えたいことだけ伝えると、準備があると言って一旦自宅へ帰っていった。

 まあ二人と出かけるのは別に構わないんだけど……デートと言われると、少し緊張してしまう。

 更に、今日はいつもと違う点がもう一つ。


「三人で出かけるんじゃなくて、それぞれ一人ずつと二時間交代でデートしてもらいます」

「最初は柚希ね。三時になったら、私と交代だから」


 てっきり三人で出かけるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 まずは一時から三時まで柚希と、そして三時から五時までを美桜と過ごすことに。

 夕方からは誕生日パーティがあるから、それ以降はまた三人で、とのこと。

「デート、デートねぇ……」

 普段から出かけることは多々あれど、あくまでそれは友達として、単純に遊びに行くくらいにしか考えていなかった。

 それが今日、突然二人から告白され、プロポーズまでされ……そして今に至る訳で。

「俺はどうすれば良いんだろう……」

 二人は完全に、俺がどちらかと結婚するエンドしか許してくれなさそうだった。

 もしここで「やっぱり知らない女の子と付き合うことにしたよ」なんて言おうものなら、それこそ自分の身がどうなるか分からない。

 ……いや、別に好きな女の子なんていないんだけど。

「……まあ、しばらくは二人に付き合うしかないか」

 


「お待たせ、遅くなってゴメンね」

 そうこうしている内に、約束の時間がやってきた。

 落ち着いた色合いのワンピースに身を包んだ柚希に、彼女の控えめな印象がそのまま服装に出ているような印象を受ける。

「そ、それじゃ行くか」

 おかしい、柚希の私服姿なんて見慣れているはずなのに、何故動揺しているんだ俺は……!

 先ほどの一件のせいか、はたまた告白のせいか。

 改めて見る柚希の姿に、思わず緊張してしまう。

「それで柚希、今日はどこに行くんだ?」

「うーん、とりあえず……」

 そう言って、少し悩んだ風を見せた柚希が──

 ──ギュッっと。

「ゆ、柚希!?」

「だって、デートなんだから……ね?」

 だから「ね?」じゃなくて!

 突然手を握られ、慌てふためいてしまう。

 さっきの抱きつきもそうだけど、柚希が何だか積極的過ぎて完全にペースに乗せられているというか……。

「……これくらいしないと、優斗君全然気づいてくれなさそうだし」

「え?」

「ううん、何でもないよ」

 手にばかり気をとられ、柚希の言葉を聞き逃してしまった。

 まあ、大方ろくなことじゃないんだろうけど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る