第4話「美桜と二倍」
「み、美桜……」
顔を見なくても分かる。
いま美桜は──めちゃくちゃ怒ってる。
「……とりあえずアンタたち、いつまでくっついてるのよ」
妹の柚希を可愛い系と評するのならば、美桜はどちらかというと美人系。というのもこの双子、二卵性双生児とかで、実際顔つきはさほど似ていないのだ。
そして似ていないのは顔だけでは無く、妹と違って運動神経が抜群という一面を持つ。
特定の部活動には所属していないが、時折バレー部やバスケ部といったスポーツクラブに助っ人で参加しているらしく、運動と名の付くものなら何でもこなして見せる器用さを持っている。
あとは、性格なんかも正反対。
口ぶりを聞いてると分かるが、美桜は結構強気なタイプの女の子だ。思ったことをバッサリ口にするし、芯が強いというべきか、常に自分を持っていて周りに流されない。
そんなスポーツ万能さと、クールビューティーさがこれまた彼女の人気を大きく支えており、校内二大美女の一人として、一年生ながらその名を学園中に轟かせている。
……ただ、なぜか俺には容赦がない。
「柚希、抜け駆けは禁止ってアンタが言ったんでしょ!」
「あ、あはは……。そうだったっけ……」
美桜の言葉を聞き、ゆっくりと離れる柚希。どこか苦笑いしているような表情を見るに、この柚希の行動は、美桜に黙って行ったものなんだろう。
そんな柚希を見て、美桜は一つため息をこぼし。
「はぁ……。部屋に行ったら姿が無かったから、もしかしてと思ってきてみたけど……やっぱりここだったのね」
そう呟くと、今度はギロリとこちらへ視線を移し。
「優斗も、何柚希のされるがままに流されてるのよ!」
「す、スマン……。柚希の柔らかい感触が──」
「は?」
「じゃなかったぁ! 突然の出来事でパニックになってな! それで……」
危ない、殺られるところだった。
そうして俺の言い訳を聞き、深いふかーい溜息をついた美桜。
「……良い? 次に柚希が迫ってきても、流されるんじゃないわよ?」
「わ、分かった」
自信は無い。
「ならよし。柚希も、次は無いからね?」
「も、もちろんだよ。お姉ちゃん……」
それを聞くと、ようやく美桜は怒りを鎮めてくれた。ふぅ……何事もなく済んでくれてよか──
「──じゃあ、次は私の番ね」
……ん?
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」
「何よ、そういう約束だったでしょ?」
「ぐっ……そ、それはそうだけど……」
俺を置いて、何やら問答を始める双子。
というか、私の番ってのはもしかしてだけど……。
「なあ美桜、次ってのはもしかして」
「そうよ。柚希に抱き着いたんだから、次は私」
やっぱりそうだったーーーーー!
「柚希とはね、一つの約束をしているの。お互いに抜け駆けは禁止って。もし破ったら、同じことを相手にさせる約束。それも────二倍で」
「ううっ……」
二倍で、という言葉を聞き、うなだれる柚希。
というか、それも……。
「それもまた、俺に決定権は無いんですね……」
「……なによ、嫌なの?」
急に不安そうな表情を見せ始めた美桜。
普段は強気な彼女のこんな表情、そんなの反則じゃないか!
「い、嫌って訳じゃないんだ! うん、別に嫌って訳じゃ──」
「そ。なら遠慮なく」
そう言いながら、ケロっと表情を戻し俺の近くに寄ってくる。
こ、コイツ……いつの間にこんな器用な真似ができるようになったんだ……!
やがて俺の隣に座ると、先ほどの柚希と同じように腕を絡め、ゆっくりと並んで寝転ぶ形となった。
ついさっき感じたような柔らかさは感じないが、それでも普段こんなに近くで美桜の顔を見る機会なんて無かったから新鮮だし、まぁ胸は控えめだけど普段強気な美桜がこうして俺の隣で大人しく寝転がっているかと思うと、何だかギャップを感じて魅力的に見えてしまうというか……。まあ、凹凸は少ないけd──
「──優斗、何考えてるか口に出してみなさい」
「な、なにも考えてないぞ! うん、変なことは何も!」
じろりと睨む美桜。心の声を読む力があれば、俺は今確実に死んでたな。
「むう……」
そんな俺たちのやり取りを、横で柚希が悔しそうに見ていることに気が付いた。
約束、ってのがどんな物なのか詳しくは知らないが、邪魔することは出来ないらしい。
……そういえば。
「そういえばさっき二倍がどうとか言ってたけど、あれはどういう……」
「二倍は二倍よ。今の状況はさっきの柚希も経験したことでしょ? だから私は──」
と言いながら、絡めていた俺の腕をゆっくりと動かし始め。
「じゃ、抱きしめて?」
と、一言。
「なっ……!?」
背中へと腕を回したことで、先ほどにも増して美桜との距離が縮まった。
痩せ過ぎず、小柄ながら適度に引き締まった体つき。こうして触ってみると分かるが、美桜も柚希に負けず劣らず女の子してて──って、そうじゃねえ!
「み、美桜……」
慌てて腕を離そうと、腕の中で、小さく縮こまった美桜を見る。
だが、こうして見ると顔が真っ赤だ。ここまで本人は至って淡々と行っているように見せていたが、その実結構無理をしていたようで……。
……馬鹿ッ! 出来るわけが無いだろ! こんな……。
「──ッ!」
ぎゅっと、抱きしめるように腕に力を入れる。
馬鹿ッ! 離すことなんて出来るわけないだろ……!
ビクッっと美桜の体が反応を見せる。だが、それを気にする余裕すらなく、ただひたすらにうるさい心臓の音と、美桜から漂う芳しい匂いに意識が持っていかれて──。
「「あっ……」」
俺と目が合った美桜が、ゆっくりと目を閉じる。
何も考えられなくなっていた俺は、そのまま美桜の方へ顔を近づけ──
「だ、ダメーーーー!」
そうになった瞬間、柚希の大きな声で、ハッっと我に返ったのだった。
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