第27話

耳に

愛しい声が響いた


「たくぅー」


「美桜!!」


一生懸命走ってくる

美桜が

笑ってる


少し離れたところで止まって彼女は細い腕で大きく◯印を作った


俺は駆け寄って強く強く抱きしめた


「ごめん、ごめんね、拓」


「うぅっ…」


「拓?泣いてるの?」


「泣いてねぇよ」


「ほんとに、ごめんね」


「おせぇーんだよ。俺…ダメだったんじゃないかって…。電話も出ないし」


「病院からこっちに向かうバスの中で妊婦さんが気分悪くなってね、付き添って病院に戻ったの。だから、電話にも出れなくて。

無事に赤ちゃん生まれたの!私と同じ誕生日だよ」


「同じ誕生日だよ、じゃねぇよ。俺はどんな思いで…

でも、ほんとに良かった…良かったぁ」


美桜の柔らかい髪を撫でながら、俺は彼女に気づかれないように涙を拭った




そして 

約束の場所へ美桜を連れて行った


「ほら…咲いてるよ。美桜の10月桜」


「綺麗だねぇ」


「お前の父親、この桜のこと知ってたんじゃないか?」


「そうなのかなぁ」


「何か、美桜に似てるな」




俺は美桜の手をしっかり握り、咲き始めた10月桜を黙ったまま見上げた



美桜

もう、一人で強くなろうとするな

一緒に強くなろう



10月桜

秋から冬にかけて咲く桜

寒い冬、満開になる凛とした強さを持つ美しい花



やっぱり、美桜の桜だ






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