第26話

美桜を抱え込むようにして眠ってた


胸に感じる彼女の温もりをまだ離したくなくて、引き寄せて髪に唇を付けた


「拓、おはよう」


美桜は少し上に来て俺の顔を見て微笑んだ


「おはよう、美桜」



「美桜…」


「ん?」


「今日、俺一緒に病院行くよ」


「拓、ありがとう。でも、一人で行く

ずっと、そうしてきたから」


「そっか、じゃあ、俺は誕生日に行こうって約束したあの場所で待ってるな」


「うん、そうして。病院は午前中には終わるから12時には行けると思う」



二人で熱いシャワーを浴び

朝食をすませた

いつもと変わらない朝



「拓、行って来るね」

「…やっぱ、俺行くわ」

「ダメっ」


にっこりと美桜が笑った


「わかった。待ってるな」


俯く彼女が俺の手を引っ張って恥ずかしそうに言った


「拓、ギュッてして」


俺は細く壊れそうな美桜をそっと包んだ


「もっと」


少し力をこめた


「もっとだよぉ」


震える声で言った美桜の顔を見ようとすると慌てて腕の中から飛び出して、背を向けた


「美桜?」

「いってきまぁーす」



美桜のこと守りたいと思った

危なっかしくて

壊れそうで

いつも悲しい目をしていて

でも、気が付くと

俺の方が支えられてたのかもしれない


美桜

大丈夫

きっと、大丈夫

.

.

.

.

.

約束の場所に早く着いた


彼女と出会って1年

泣いてばっかりだった美桜がいつの頃からか

よく笑うようになった


そして、もうすぐ

いつもの笑顔で走ってくるはず

絶対


でも、12時を過ぎても美桜は来ない

1時

2時


電話も繋がらない

ダメだったのか?

泣いているのか?


行ってやらないと

美桜の側に


頬が涙がつたってくる

とにかく、行かなきゃ

呆然と歩き出した






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