第28話
「美桜…俺、まだ、あっちにやり残したことがあるんだ。
もう少し、待っててくれないか。淋しい思いさせるけど…」
「べっつにぃ、ご飯が余るだけよ」
やっと触れられた拓の温もりがまた離れていくと思うと、ほんとは淋しくて仕方なかった
こみあげてくる涙をぐっと我慢した
拓は私を包み込むように抱きしめて、低い声で言う
「どうして我慢すんの?泣いていいよ。無理すんな」
「だって、私が泣いたら、拓、行けなくなっちゃうよ。だから、泣かない」
「バカじゃねぇの、もう泣いてんじゃん」
「泣いてないよ」
「だから、お前が泣く時は俺にはわかんの」
そうだったね
初めてここで泣いた時も
あなたに私の心の涙が見えてたよね
「うぅ、グスッ」
「ごめんなぁ、美桜、俺ひっでぇ男だなぁ」
「うん」
「うんって、おい」
「だってぇ」
「ごめん、ごめん」
拓は私の背中を擦りながら、何度も何度も謝った
そんなに謝ってくれなくてもいいよ
余計、辛くなるよ
余計に好きが溢れるよ
再び、拓がニューヨークに発った
そして
ちょうど1年前、
春の桜の頃に見送った彼が今度は笑顔で帰国した
帰国してからの拓は昼夜問わず、働きづめで倒れやしないかと心配だった
「ねぇ、拓?」
「美桜、わりぃ、ちょっと出てくる」
「今から?どこに?」
「んー、打ち合わせ、遅くなるから先に寝てて」
「わかった」
最近、いっつも、そう
ちゃんと目を見て話す時間もない
「ただいま、美桜」
遠くで拓の声が聞こえてる
「こんなとこで寝るなよー、
ごめんなぁ、もう少しだけ、我慢してくれよなぁ」
頬に温かく唇が触れたと思うと身体が宙にうき、柔らかいベッドにおろされた
「おやすみ」
彼の優しい声が耳に響き、深い眠りについた
慌ただしい日々が続き、
また、拓と出会った秋が訪れた
「美桜…明日の誕生日だけど、ちょっと出掛けたいところあるんだ」
「何処に?」
「それは明日な」
「わかった。楽しみにしてるね」
翌日
「美桜、これ着て」
拓が持ってきたワンピース
拓と初めて出掛けた時のワンピース
「これ…どうしたの?」
「あの時、美桜にあまりにもよく似合ってて、買い取ってあったんだ。また着てほしいって思って」
「ありがとう~!私もすごーく気に入ってたの。っで、何処に行くの?」
「まぁ、とりあえず、着替えて」
2階で着替えて店に降りると、拓もスーツに着替えてた
私の手を取り、彼はニコリと笑って言った
「今日はあの時より、アクセサリーがグレードアップしてるんだ」
左手の薬指にキラキラ輝くリングをはめてくれた
「美桜…ずっと、一緒にいような」
「拓…」
溢れそうになる涙をこらえながら、答えた
「一緒にいるよ。ずーっと
……ありがとう」
「まだ、泣くなよ。もう1つ
はいっ、今日のパーティーの招待状」
その招待状には
mio_taku co.,Ltd
代表 東城拓海
…と記されていた
「これ、うぅっ、拓ぅー」
「美桜、泣きすぎ、ハハハ」
優しく抱きしめて背中をさすってくれた
「だってぇ、こんなに…一気に嬉しいこと、グスッ、すごいよ、拓、おめでとう」
「誕生日、おめでとう、美桜。
これで、誕生日が来るのが楽しみになったよな?あー、間に合って良かったぁ」
「ひょっとして、拓、わざわざ今日に?」
「今まで、辛い思い出だった誕生日がさっ、
誕生日、結婚記念日、会社創立記念日、
これだけ、揃ってりゃ、毎年、楽しみで仕方ないよな。今日が来るのが!」
「拓、かっこよすぎるよー」
「まぁなぁー、俺は出来る男だからな。
…美桜がいてくれたから、夢が叶ったよ」
少し背伸びして彼の首に手を回し、頬にキスした
恥ずかしそうに笑った唇に何度も触れるだけのキスをする
「それだけ?」
「え?んんっ」
後頭部を支えて深く蕩けるようなキス
「これぐらい、ほしいね」
「うん、そうだね」
「フッ、美桜、やっらしい」
「だって、拓の奥さんだもんっ」
「ハハ、そりゃそうだよな。っで、主役の奥さんがそんなきったねぇ顔してたら、ダメだぞ」
「汚ないって」
「だって、ひっでぇぞ、早く顔洗ってこい」
「うん」
私達は会場に行く前に去年と同じ場所へ
10月桜を見に行った
「拓…私、5年前から、変われたかな?」
「変わらなくていい。
美桜は美桜のままで
初めて会った時も
今もこの先も
ずっと、そのままでいい
俺はありのままの美桜を愛してる」
I love you just with way you are.
forever you.
fin
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