第21話


毎日、ただ生きてるだけ…

そう思ってた日々が拓と出会って、

何もかもが変わった



朝日ってこんなに眩しかったんだ

夕焼けってこんなに輝いてたんだ


真っ暗な夜空にだって、

こんなに星が煌めいてたんだ


全部、拓が私に気付かせてくれた




「いらっしゃ…、あっ、美桜」


「ごめん、まだお仕事中だったね」


「いいよ、もうすぐ閉めるから」


「私、上にいてるね」


「わかった。ちょっと待ってて」


「慌てなくていいよ。おいっしいご飯作ってるからね」


「おー、楽しみ」



2階に上がって晩御飯の支度を始めた


しばらくすると下から、話し声が聞こえた

お客さんかな?


何だか妙に気になって、階段の途中まで降りた



「いや、俺は行くつもりありませんから」


「拓、こんないい話、断るのか?」


「いいんです。俺はここで」


「もったいないだろ。お前だって、もう若くない。これがラストチャンスになるかもしれないぞ」


「わかってます。でも、行きません」


「昔から行きたいって言ってただろ?

ニューヨークに。

今週いっぱいまで待つから、気が変わったら連絡してこい」


「気は…変わりませんから」



ニューヨーク…

きっと、拓は行きたいんだ


私の…せいだ





「腹減ったぁー」


「お疲れさま」


キッチンに向かったまま、こっちを見ようとしない美桜。

様子がおかしい


「どしたぁ?元気ないな」


後ろから抱きしめて顔を覗きこんだ


「何にもないよ」


身体の向きを変えて、両手でギュッと頬を挟んで顔を近付けた


「ハハ、変顔」


それでも俺の目を見ない彼女



「美桜、わっかりやすいなぁ。何か言いたいことあるんだろ?」


俺の指先をいじりながら、俯いて話始めた


「拓…」


「んー?」


「あの…さっきの話…」


「さっきの?あー、聞こえてたんだ」


「…うん」


「もう、断ったから」


「拓…行きたかったんでしょ?夢だったんじゃないの?」


顔を上げてしっかりとした声で話す美桜


「そう…だった。

でも、もう興味なくなった」


「私のために諦めるの?」


「違うよ、うぬぼれんな。

別にお前の為とかじゃないよ

行きたくなくなった。それだけ」


「嘘つき」


「嘘なんかついてないし」




「じゃあ、どうして、去年私と一緒に行ったパーティーであんな顔してたの?

今の自分に納得してないって、どこかで思ってる…そうじゃない?」



俺の心の中の誰にも見せていなかった部分を彼女に見透かされたようで……焦った



「美桜に何がわかるんだよ」


「わかんないよ。

洋服のことも、ブランドのことも

何もわからないけど

……けど

拓のことはわかるの」



必死に泣かないように口を一文字に結び、しっかりと俺を見つめる美桜を見ていられなくて目をそらした




「拓、今日は私帰るね。

…ごめん、わかったようなこと言って」



静かに階段を降りていった彼女

バタンと閉まったドアの音が胸をしめつけた



テーブルに並べられた冷えてしまったハンバーグ



「いただきます」


美桜にあんな顔させて、

俺はどうしたらいいだろ?

俺は…



いろんな事が頭を駆け巡り、気付くと頬が濡れていた



「ふっ、上手いじゃん……ハァ、1人でこんなに、食えるかよ、グスッ」



だっせぇなぁ、俺


美桜のすべてを抱きしめると決めたのに

どうすれば……いいんだろ













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