第14話


(そろそろ、店閉めるか

…美桜、熱下がったかなぁ)



「もしもし、美桜?」


「拓海くん…」


「どうだ具合は?」


「もう大丈夫だよ」


「今から行くから」


「う、うん…」


「どうした?え?!」



店の向かいの公園のベンチに美桜を見つけた

慌てて、彼女の元へ駆け寄った



「美桜!お前寒いのに何してんだよ!!

バカか?風邪ひいてんだぞ」


「へへ、来ちゃった」


「来ちゃったって、いつからいた?」



手をとろうとすると咄嗟に引っ込めて、ポケットに突っ込み、ばつの悪そうにする彼女


赤く染まった頬に触れた



「冷たっ、美桜ー」



顔を覗きこむ俺に飛び付くように抱きついた




「だって…拓海くんがどっか行っちゃうんじゃないかって…

もう、このまま、会えないんじゃないかって…。

不安で不安でいてもたってもいられなくなって…気が付いたらここに来てた」



「そんなわけねぇだろ。どうして、店に入って来なかったんだ?」



「お仕事の邪魔したくなかったんだもん」



「とにかく行こ」



背中に回された手をほどいて握り、繋いだまま今度は俺のポケットに入れた






お店に入るといつものソファに座らせてくれて、すぐにミルクたっぷりの温かいカフェラテを作ってくれた



「んっ、ほら、飲め」


「ありがとう」



冷えきった体に少しずつしみわたっていく



「美味しい」




彼はソファに座る私の後ろに座って背中から包み込むように抱きしめて温めてくれる




「美桜…俺、お前のこと好きだよ。

大切に思ってる。そんな俺がどっか行く訳ないだろ?ん?」



私は何も言わず振り返って彼の首に手を回した



「美桜、また泣いてんの?」



「泣いてないよ。だって、私は今、すごーく幸せなんだもん」



「だよなぁ。俺みたいなイケメンに思われてなっ」



「はぁ、何それ?自惚れすぎでしょ」


彼の鼻を摘まんだ


「ハハハ、冗談だよ」


拓海くんが私の髪を撫でながら嬉しそうに笑ってる



私からキスした


長いキス

ありがとうのキス

大好きのキス



唇を離すと恥ずかしくなってすぐに彼の横に座り直した



「美桜ちゃん、なかなかやるねぇ」


「あったりまえよ、私だって」


「何、そのどや顔」


肩を引き寄せられて彼の肩に頭をのせた




「そりゃあ、そうと、前から思ってたんだけど、美桜って4月生まれなの?桜の咲く頃に生まれたの?」



「違うよ、10月生まれ。変でしょ?お父さんが桜の花が好きでどうしても桜の字を入れたかったとか…」



「ふーん」




「誕生日は…嫌い」




「え?なんて?」



呟くように言った言葉は彼には聞こえなくて内心ホッとした



「うううん、何でもない。

そうそう、桜の話なんだけどね、実は秋にも咲く10月桜っていうのがあるんだって。見てみたいなぁ」


「10月かぁ。どこで見れるんだろうなぁ。来年、秋になったら見に行こうよ」


「拓海くんと?」


「そっ、他に誰がいるんだよ」


「10月だよ、まだ先だよ?」


「あっという間だよ」


「うん……そうだね」




10月桜



拓海くんと見に行きたい


行けるよね……

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