第10話

拓海くんに抱きしめられて

すべて、この人に預けてもいいかもしれない…と思った



こんなにも愛しくて

いつまでも離れたくなくて


どんな時も会いたくて

温もりを感じていたくて


思いが溢れて

止まらなくなった



悲しい日が訪れるかもしれない

でも、今はただ、彼を失いたくなかった




彼は私がお店が終わるといつも迎えに来てくれる



「ねぇ、拓海くん、そんなにしょっちゅう、迎えに来てくれなくてもいいよ。お仕事あるでしょ?」


「俺、一応、オーナーだからねっ、時間に自由はきくんだ」


「そうなの?」


「そうなの!嬉しいだろ?」


「べっつにぃー」


「ふーん、美桜はすぐ顔に出るから、わかりやすー」


「え?何て?」


「べっつにぃー」



大好きな人の笑顔が隣にある

それだけで幸せだった




季節が秋から冬へ


街にはクリスマスイルミネーションがきらびやかに輝き始めた



「美桜、クリスマスどうする?」


「お仕事が入ってるけど…」


「忙しいの?」


「忙しいよ」


「メチャクチャ忙しいの?」


「めっちゃくちゃ忙しいよぉー。気がついたらクリスマス終わってるぐらいね」


「ふーん」


「クスクスッ…うっそ、うそー。

和菓子屋さんがクリスマス忙しい訳ないでしょ?」


「お前なぁ」


「だって、いっつも拓海くんにやられっぱなしなんだもん。たまにはね~。早くお仕事終わるよ」


「ムカつく」



そう言ってソファに並んで座った私をひょいと持ち上げて膝の上にのせた



「拓海くん、おろしてよぉ」



肩を押すと私をおとなしくさせるように胸に顔を埋めていつもより強く抱きしめられた



どうしていいか、わからず、彼の髪を優しく撫でると、拓海くんは顔を上げて甘えるように言った



「ねぇ、美桜、キス…してよ」


「私から?」


「そっ」


「出来ないよ…拓海くんが…して」


「今日は美桜からしてよ」



そんな色っぽい目で見られたら心臓もたない。


彼の瞳に吸い寄せられるようにそっと唇に触れた



「足んない」


「もう、無理だって」



顔を覆ってる私の手を左手で外し、右手を後頭部に回し、深く角度を変えながら、何度も繰り返されるキス


息が苦しくて声が漏れる




彼の大好きな洋服で埋め尽くされた秘密基地みたいなお店


間接照明の明かりだけが点る中


私たちは夢中でキスをした




ずっと、このまま

ずっと、一緒




心の中でリフレインのように繰り返してた

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