第8話


拓海くんが泣いてる


肩に触れる彼の唇が震えているようで、

私まで辛かった




「俺…このまま、美桜ちゃんをさらっていきたいんだけど…」



優しい声で囁くように言われて、

慌てて、彼の胸を押した



「ごめん…私、ダメなの」


「ダメ…なんだ。彼氏いたの?」


「いないよ。いないけど…ダメなの。

もう、好きになっちゃいけないの。

……私といると、いいことなんてない」


「何言ってるか、わかんないんだけど」


「とにかく、ごめんなさい

ほんとにほんとに、ごめん。

……今日はありがとう」




私…きっと

拓海くんのこと好きになってる


一緒にいたいと思ってる



でも、いつか、あなたも私から去っていく


もう

傷つきたくないの



今なら間に合う

……すぐに忘れられるはず



まだ腕に残る彼の温もりを

冷たい夜風が消してくれるまで


私はあてもなく歩いた




~~~~~~~~~~~~~~~~~~




美桜ちゃんの"ごめん"と言った悲痛な顔が忘れられなかった


きっと何かあるに違いない





「ばあちゃん、久しぶりにお茶、飲みに来てやったぞー」


「来てやったぞって、偉そうに。飲みたいんでしょ。さっ、いらっしゃい」




「どうぞ」


「いただきます」


「それで?たっくん、好きな子でも出来たの?」


「ぶっ、何だよ!いきなり」


「だてに、長く生きてないわよ。

たっくんが茶室に来る時は大概何かある時。昔からそうだったでしょ。


今日のたっくん見てたらねぇ、どうも自分以外の人のことで悩んでるように見えたのよ」



「ばあちゃんには勝てねぇな」



「相手の方はどういう人なの?」



「無邪気に笑って、泣いて、怒って、真っ直ぐで…

でも、何かおっきなもん抱えてるような気がして」



「たっくん……何も抱えてない人なんかいるかしら?

抱えてるものが大きいとか小さいとか、

重いとか軽いとか、

いちいち細かいことは気にせず、

大切な人が持ってるもの、ぜーんぶ引っくるめて包んであげられる、

そんな男にならないとね。


それが、本当にその人のこと好きだってことでしょ。


口先だけの気持ちなら無理でしょうけどね」




俺は言葉が出なかった


その通りだと思った


彼女が抱えているものが何か?

まだ…わからない




でも、やっぱり彼女を

守ってあげたい




最初に思った気持ちに変わりはなかった

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