第3話


何も変わらない日常


初めましても

さよならもない


ただ、時が流れ、私は息をしてる





「河瀬さん、これ、駅前のお客様にお届けしてくれない?」


「はい、わかりました」





高層ビルが建ち並ぶ駅前

たくさんの会社のOfficeがあった



4年前

私もここで、ヒールを履き、スーツに身を包んで背筋を伸ばし、スクランブル交差点を歩いてた


仮面をかぶっているかのように

同じような表情で行き交う人達


何だか息苦しい

早く、戻ろう


そう思ってた時…



「河瀬さん?美桜?」

聞き覚えのある声


振り返ると視線の先に私がかつて愛した男、

もう、愛してたのか?もわからない


「やっぱりなぁ、今、どうしてる?」


この人、よくもそんな顔で話しかけられるよ。無神経にも程がある


「…どう?…って…働いてます」


私はきっと怪訝な顔をしたに違いない


これ以上話したくない

もう限界

頭がクラクラする




「美桜さん?」


遠くから聞こえる優しくて深い声


「どうしたの?気分悪い?」


小走りで駆け寄ってきて私の腕を掴んだ人




「たっくん、さん?」


「美桜、この方は?」


「知り合いですけど」


私が言葉を発する前にすかさず、彼が答えた


たっくん、さんは私の顔を覗きこんで

再び、男に向かって続けた



「美桜さん、具合悪そうなので失礼しますが、いいですか?」


「あっ…はい」



少し乱暴に言った彼の鋭い目にたじろいだ男は去っていった




「たっくん、さん、どうして?」


「そんな真っ青な顔して、辛そうにしてたらほっとけるかよ。

それより、そのヘンテコな呼び方やめてよ。

拓海でいいよ」


「はい、拓海さん、ありがとうございます」



頭を下げた瞬間、フラフラと目眩がしてその場にしゃがみこんでしまった



「美桜さん、大丈夫?」


私は首を縦に振って、無理に微笑んでみせた


「つかまって」


「大丈夫です」


「めんどくせぇ女だなぁ、ほら」



両腕を抱えるように立ち上がらせてくれて、しっかりと背中に彼の腕が回された



「で、でも」


「恥ずかしがってる場合かよ。

すぐ近くに俺の店があるから、そこまで歩けるか?」


「はい」


彼の身体に寄りかかり、ゆっくりと歩いた




こんな温もりいつからだろう?忘れてた



うううん、

こんなに安心できる温もり、

初めてだったかもしれない


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