第1話


駅から少し離れたところに建つ老舗和菓子店


私はここで働いている




駅前の騒がしい空気とは一変し

木々や季節の花がたくさん植えられた庭園と呼べるほどの広大な土地


お店はその中にひっそりと建っている



その佇まいからかお客様はほとんどが常連客


昔からご贔屓にしていただいてる茶道の先生、ご近所の年配の方で特に忙しくすることもなく、いつもゆったりとした時間が流れていた




勤務時間も終わり、帰り支度をしてお店を出た



(今晩、何食べようかなぁ

毎日、同じこと考えてるな)



そんなことを思いながら、歩いていると、

いつも、お茶会のお菓子を買いに来られる先生がたくさんの紙袋を抱えてキョロキョロしておられた



「お客様、あの、お持ちしましょうか?」


「あら、店員さん、大丈夫ですよ。すぐ近くなので」


「いえ、それなら、ご迷惑でなければ、お宅までお持ちします。私、もう、帰りますので」


「そんなぁ、お仕事終わったのに申し訳ないわ。孫と待ち合わせしてたんですけど、うまく会えなくて……」


「いいんです。行きましょう」



私は紙袋を持ち、歩き出した


他愛もない話をしながら、閑静な住宅街をゆっくりと進む



先生は和服がとてもお似合いになる上品な方で穏やかな声がすーっと耳に心地よく入ってくる


話してると、心が落ち着いた




ピタリと先生が足を止めた前に一際目立つ立派なお屋敷があった




「ここなの。ありがとうございました。助かったわぁ。どうぞ、上がってお茶でも」


「いえいえ、私はこれで」


「お時間急ぎますか?お茶お嫌い?」


「いえ…でも…」


「なら、いいでしょ、ねっ!」



半ば強引に招き入れられたところはお屋敷の奥にある茶室



「さっ、どうぞ」


「あの、私、お作法とかわからなくて」


「いいんですよ、そんなことは。

すぐ、準備しますね」



先生は先程までの穏やかさとは違う凛とした表情になった


お茶をたてる音だけが響く



「どうぞ」


「いただきます」


「苦いですか?」


「いえ、とても美味しいです」


「あっ、ごめんなさい、先にお菓子をお出しするの忘れてたわ。待っててね」



ニッコリと笑う先生が部屋を出ようとすると長い廊下を誰かが歩いてきたようだった



ガラリと勢いよく戸が開けられた

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