第16話「幼馴染の告白と計画」

「その……私、優介のことがね……」


 一年前、女の子に告白された。


 彼女の名前は春瀬七海、小さい頃から家が隣同士の幼馴染で、小さい頃に結婚の約束をなんてベタなことはしてないけど、それなりに仲が良くて、周りから揶揄されようとお互いの近すぎず遠すぎずの距離感を保ち続けたまま気がつけば同じ高校にまで進学していた。


 多分だけど、僕たちがこうして友達同士でいられたのは、そこにお互い恋愛感情が生まれなかったからだと思う。

 いや、この時まではそう思っていた。

 お互いそんな感情を一切持っていないからこそ、周りからどう思われようと、どう言われようと、その事実を否定すれば良いだけのことで、それが嘘じゃないのだから特に悩む必要も無かった。


 だからこそ僕は、七海に対しては友人として接してこれたんだと思う。


「ごめんね、突然こんなこと言っちゃって。迷惑……だよね?」 

 迷惑かどうかと問われれば、決して迷惑なんかじゃない。

 僕だって男だ、それがたとえ幼馴染であったとしても、女の子からの告白に喜ばない男なんているものか。

 だけど、タイミングとしては、ある種最悪だったかもしれない。

 ここは学校、つまりいつもと同じ制服を着ているわけで。

 今日もバッチリ、僕の制服の襟元には、盗聴器が仕掛けられているわけで。


「それで、私と、その……付き合ってください!」

 それは、これまで見たことの無い彼女の表情だった。

 顔を赤らめ、目線も下を向きがち。よく見れば両手は少し震えている様子だった。


 そして、そんな七海を見て、可愛い、と思っている自分がいた。


 ……だけど、この告白を受ける訳にはいかない。

 朱莉の仕掛けた、襟元の盗聴器。

 もし僕がこの告白を受けてしまえば、それを聴いた朱莉がどのような行動に出るのか。盗聴、盗撮までするくらいだ、本気で何をしでかすか分からない。


 けど……。


 目の前の少女を見て、僕はどう断れば良いのか、分からなかった。

 相手は10年以上一緒の時間を過ごしてきた幼馴染。今ここで告白を断るということは、その関係を崩してしまうということ。


 それは……出来れば避けたい。


 七海のことは好きだ。

 それは異性としての好きかまだ分からないけど、少なくとも、今ここで僕たちの関係が終わってしまうのは嫌だ。

 だけど・・・・・・どうすれば……。


「……って、いきなり幼馴染からこんなこと言われても、困るよね!」

 告白から数十秒経って。

 色々と考えを巡らせ沈黙が続いたこの空気を打破してくれたのは、彼女の一言だった。


「ゴメンね! いきなりこんなこと言っちゃって…… 優介がビックリするのも無理ないよ。だからさ、少しだけ、考えてくれないかな?」

「考えるって…・・・」

「うん、告白の返事。今すぐにじゃ無くていいし、なんなら私はいつまでも待つよ。出来れば高校を卒業するまでには決めて欲しいかな! なーんて」

「いや、流石にそこまで時間をかける訳には……」

「良いの、悩んで悩んで、真剣に悩んで欲しいの。それだけ私のことを考えてくれてるんだって感じられるから、私は別に構わないの」

「七海……」

「じゃあ私は先に帰るね! あ、それと! 告白したからって、明日から関係が変わるとかは無しよ! 今まで通りで良いからね! 答えは、いつまでも待つから……!」


 そういって、七海は部室から出て行ってしまった。

「……卒業まで、ね」


 先ほど七海が言っていた、卒業までに決めて欲しいという言葉。

 流石にそこまで掛けるわけにはいかないけど…・・・でも。

 自分の気持ちに嘘はつきたくない。

 告白を通して芽生え始めた、七海に対しての、今までとは違った感情。

 この気持ちを、無かったことには、してはいけない気がした。


 けど、まずは朱莉の問題を解決することが先決だ。





【春瀬七海】

「思ったよりも早く行動をしてしまったかな……」

 先ほどの告白を振り返って、自分の『計画』が少し早計だったのでは無いかと、後悔をしてしまっていた。

 告白自体は、いずれするつもりではいた。

 だが、『計画』ではもう少し後、優介の意識を自分に向けたタイミングで行うはずだった。

 

 「……とにかく、このジョーカーを切った以上は、これを有効活用しないと」


 一番の理想は、告白の返事が良いものであること。

 そうすればこの『計画』を実行する必要も無くなるし、丸く収まるならそれで。


 だけど、もしこの告白が失敗すれば……。


 どうもここ最近の優介は、様子がおかしい。

 時折上の空を浮かべ、何か悩み事があるのか、溜息の回数も増えた気がする。

 でも、決してその悩みを打ち明けてはくれない。今までだったら、小さな悩み事でも、何でも相談してくれた私に対して、何か隠し事をしているようだ。

 それが何なのか、もしかすると、女性絡みのことなのか。


 もし私ではない他の女性に関すること、それが例えば、別の女性が好きだという場合。


 ひとまず告白の返事を返すまでは、たとえ他に気を取られている女性がいたとしても、安易にそちらへ行くことは出来ないはず。

 10年以上の付き合いだった幼馴染からの告白だ。きっと、それなりに大きな出来事になったはず。

 後は、いつまでこの告白で意識を足止め出来るか、だ。


「別の女性になんて、許さないからね」


 だって、優介と結ばれるのは、私なんだから。

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