第17話「親友は疑っている」

「ねえ……お兄ちゃんはさ、七海さんのこと、好き?」

 数日前に朱莉から問われた、七海への思い。

 あの時は咄嗟に

「女性として好きではない」

 と答えたものの、本心としてはとても微妙なところである。


 1年前の告白を経て、僕の気持ちは少しずつだが七海に向けられていることに、自分でもどこかで気づいてはいた。

 七海と交わす何気ない会話は好きだし、部活でも学校でも、七海と過ごす時間が増えて喜んでいるのもまた事実な訳で。

 それが異性としての好意によるものなのかってのは、未だハッキリとした答えを見出せないでいるけれど、少なくとも今の僕にとって、七海以上に気になる女の子はいない。


 いや、気になるという点においては朱莉が一番だけど……そこは、気になるの度合いが違うと言うか。

 とにかく今は朱莉の事を最優先に、なんて言って七海のことを先延ばしにしていたけど、そろそろ僕も色々と考えないといけないのかもしれない。



「明日は私服で登校な! 本格的に舞台での練習を始めるから!」

 昨夜届いた嘉樹からの連絡。


 ああ、そういえば僕と朱莉がダブル主演で、演劇もやらなくちゃいけないんだっけ。

 ここ最近とにかく色々な事が起こりすぎて、部活動の事がすっかり頭から離れてたけど、そうだ、こっちも頑張らないと。

 文化祭まで残り僅か。未だセリフ合わせくらいしかこなしていないけど、それでも朱莉と二人で舞台なんて、何だか変な感じだ。

 

 

「よーし、じゃあ早速始めようか」


 新部長に就任した嘉樹の合図で、舞台の練習が始まる。

 今回文化祭で披露する予定の舞台「朝露」は、七海によるオリジナルの脚本だ。


 出演は僕たち兄妹と嘉樹。大まかな物語としては、

『恋人同士であった主人公(妹)と彼氏(僕)。だがある日、突如彼から別れを告げられることとなる。悲しみに暮れる主人公の下へ、彼女に好意を寄せる男性(嘉樹)が登場。二人はその後結ばれるものの、主人公の心の片隅には、どうしても彼(僕)の事が忘れられないでいた。

 そんなある日、偶然立ち寄った病院で、彼(僕)と再開を果たす。その時に、実は彼(僕)が病気で余命宣告を受け、主人公に迷惑をかけまいと別れを告げていた事が分かる。

 彼(僕)の事が忘れられなかった主人公は、急ぎ彼の看病をと考えるが、彼女には今付き合っている男性(嘉樹)がいて……』

 という作品になっている。


 物凄くドロドロとした青春モノ。

 七海の書く作品は面白いんだけど、基本こういうシリアスな物語が多い。


「それじゃとりあえず、優介と七海ちゃんの別れのシーンから練習始めよっか」

 今回の物語は、恋人同士の僕たちが別れるシーンから舞台が始まる。いくら舞台での練習とはいえ、朱莉はどんな心境でこのシーンに臨んでいるのだろうか。


「はい、スタート!」





「よし、オッケー! じゃあ今日はこの辺で終わりにしよう!}

 時刻は17時過ぎ、ようやく今日の練習が終わった。

 相変わらず兄妹で恋愛モノなんて違和感しか感じないけど、事情が事情なだけにとても他人事とは思えないので、色々と複雑だ。

 とにかく文化祭が終わったら裏方に徹しよう、うん。


「なあ優介、この後ちょっと時間あるか?」

 なんて先のことを考えていたら、嘉樹から声を掛けられた。


「大丈夫だけど、何か用事?」

「おう、ちょっと話したいことがあってな……二人で」

「うん、別に良いよ。じゃあ朱莉と七海には僕から伝えておくから」

「悪いな、ちょっと気になることがあってさ」

 普段より少しマジメな嘉樹の表情に違和感を覚えつつ、朱莉と七海に先に帰るよう伝える。


 あ、というか僕たち二人がいなくなったら、朱莉と七海はどうするんだろう。

 まさか一緒に帰るなんてこと……うん、考えられないというか、考えたくないな。



「すまんな、時間取らせて」

 二人と分かれ、僕たちは学校近くの喫茶店に寄ることとなった。


「いや、それは別にいいんだけど……で、話って?」

「あ、ああ。実はこの間伝えようと思ったんだけど、お前携帯忘れたとか言ってどっか行っちまったからさ」

「この間……? ああ、あの時の」

 そういえば、この間…・・・そう、丁度朱莉が入部したときに嘉樹から朱莉が入部した理由を聞かれたんだっけ。

 あの時は適当にごまかしたけど、朱莉のいる前じゃ話せないことって言うから、無理やり逃げたんだ。


「いや、実は前から薄々感じていたんだけどさ、部活に入部してからの朱莉ちゃんを見てて、最近また思うようになったことがあるんだ」

「何を?」



「もしかしてさ、朱莉ちゃんって、お前のこと……好きなんじゃないか?」

「……え?」

 

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