第7話「決意」

 昨夜の衝撃から一夜明け。

 さてこれからどうしたものかと一晩寝ずに導き出した今後の方針、それは、妹の考えを改めさせるというものであった。


 とはいえ、僕に対する情愛のそれは、もはや手遅れなレベルまで進行しているのは火を見るより明らかなので、結論としては、僕に対する思いを諦めさせるのではなく、彼女が企てているあの「計画」の実行を断念させる。そのための行動を取ろうと思う。


 それも、なるべく、平和裏に。


 そもそも血のつながった実の妹から好意を寄せられている、という事実そのものをがおかしいのだから、

「実の兄を好きになるなんて気持ちが悪い」

 とハッキリ言ってしまえば済む問題ではないかとも思うが、それを口にしてしまったが最後、彼女がどのような行動を取るのかが全く持って予測不可能なので、却下。


 無いとは思うけど、刃物とか出てきたら怖いもんなぁ……。


 そんなわけで、当面の間は彼女に強い刺激を与えないように気をつけつつ、徐々に彼女の意識を改善させていく、そうしようと思う。


 どうやら彼女曰く、僕と距離を取っているのは、将来的に僕を監禁したときに、疑いの目が自分に向かないための布石打ち。


 ――であるならばだ、逆に、僕と朱莉の関係性が、卒業までの1年半で大きく変わっていけば、彼女の「計画」にある思惑とはかなりのズレが生じ、考えを改め直してくれるのではないだろうか。


 もちろん、思い通りに事が進むなんて保証はどこにも無いし、そもそも彼女からの好意が無くなるわけではないので、成功したとて結局は単なる一時凌ぎにしかならない。もしかしたら監禁よりももっと恐ろしい計画を思いつき、実行する可能性だってある。



 だけど、だからといって、このままにしておくわけにもいかないだろう。



 もし、彼女の計画が実行されてしまったら、もうどうしようもなくなる。

 そして、その「計画」が成功するにしろ失敗するにしろ、その先に待っているのは、きっと、地獄。


 両親は、きっと誰よりも悲しむだろう。

 七海も、嘉樹も、これまで知り合った全ての人も。

 そして、それはきっと、僕と朱莉にとっても、決して幸せなものではないはずだ。


 そのためにも、彼女の僕に対する愛情云々はひとまず置いておいて、まず優先すべきは「計画」を断念させること。

 とにかく、これ以上彼女の思い通りにさせては、絶対にいけない。


 そのためにまずは、朱莉との関係を改めていく、そこからスタートだ。 



「とは言ったものの、理由も無くいきなり声を掛けるのも怪しいよなぁ……」

 ノートを見る限り、朱莉は僕が何も知らないと思っているようだ。まあノートを見た痕跡は絶対に残さないよう細心の注意を払っていたし、朱莉に対して怪しい態度を取ったことも無い……はず。


 で、あるならばだ。

 下手に行動しすぎると、自分で自分の首を絞めてしまうことになりかねない。


 理由も無く、長年ろくに会話をしなかった相手からいきなり声をかけられたら、何かあったのではないかと疑うのが普通だ。

 もしそれが『お兄ちゃんノート』、延いては「計画」の全容を知っての行動だとバレてしまえば、僕の思惑は全て崩れてしまう。

 だから、彼女との距離を少しずつ……それも、僕が何も知らないという体で、徐々に縮めていかなければならないのだ。


 ……あれ、これってもしかして、めちゃくちゃ難しいのでは。


 何しろ朱莉とまともに喋った記憶なんて、ここ数年で一度も無い。両親を介してなら数度かあるけど、それも特別重要な内容でもない。


 つまりは、きっかけ。

 彼女に話しかけても不自然ではない理由を探すこと、まずはそこから始まりそうだ。

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