9.砂糖を入手するⅠ

 

 「現代には欠かせない砂糖」

 砂糖は現代社会になくてはならない代物です。ああ、この世から一瞬にして砂糖がなくなってしまったら、一体どれほどの人間が絶望してしまうことでしょう。

 現にかなりの中世ヨーロッパオタクである某漫画家(&イラストレーター)は、自分を「中世を愛する人間」としているのですが、一方では「一生を中世で過ごしたいとは断じて思わない」という主張をしています。その理由の一つには砂糖の欠如というものがあるのです。

 また、映画「キングスマン: ゴールデン・サークル」では、“砂糖にはコカインの8倍の中毒性があり、砂糖飲料による毎年の死者件数は、コカインによる死亡者の2倍”という内容のセリフが出てきます。死亡者に関して言わせてもらえば、そもそもコカインは禁止薬物であるから砂糖よりも上回っていたらおかしいと思っているのですが、中毒性に関する情報には衝撃を受けています。


 こうしてみると、現代社会はいささか砂糖という湯船に浸かりすぎてしまっている感がありますが、人間にとって、砂糖とはそれほどまでに魅力的なものなのですね。エルフの島にはサトウキビが沢山生えていて、人間は砂糖を彼らから大金支払ってでも買い取る、なんていう構図があると、ファンタジー世界のリアリティがまた一つ増すでしょう。




 「砂糖の入手法」

 さて、砂糖の入手法は主に四つに分けられます。①サトウキビ(甘蔗)から ②甜菜(ビート)から (③はちみつから ④果物から)となります。このうち③と④を括弧で囲ったのは、砂糖単体を入手する方法ではないからです。しかし、間接的とはいえ、砂糖を摂取していることに変わりはないので紹介します。

 

①サトウキビ:サトウキビは砂糖と人類の歴史を語る上で外せない植物です。起源はかなり古く、紀元前8000年頃に南太平洋あたりで発祥したと言われています。その後、歴史大国インドにて砂糖の知識が発達し、アレクサンダー大王が「蜜蜂の助けを借りないで蜜をもたらす葦」の存在を発見します。

 その約700~800年後には、中国で砂糖の原型(沙糖)が作られ、知識、技術共にハイレベルなアラビア人たちにもその存在が知られると、エジプト、スペインでも栽培が始まります。なお、8世紀後半のスペインに於いては、アストゥリアス王国と共に後ウマイヤ朝というイスラーム国が存在していましたので、同国だけサトウキビの栽培が始まっているのもおかしな話ではありません。ちなみに砂糖がアラブ方面からヨーロッパに伝わった影響として、アラビア語で「砂糖」を意味するsukkarがsugarになり、「砂糖菓子」を意味するqandがcandyとなったことなどが挙げられます。

 当然のことながら、上記の時代では砂糖が普及するどころか、情報すらまともに広まりません。ヨーロッパに“次第に”広まった時代ですら十字軍の遠征が終わった11世紀の初めです。では一体、どのくらいの時代に砂糖が一般人でも手が届きやすい物品となったのでしょうか? 

 調べてみると、悲しいことではありますが、奴隷を駆使して経営されたプランテーション農園にて生産力が増強され、19世紀末に一般に普及したといいます。「砂糖のあるところに奴隷あり」なんていう言葉も生まれました。


②甜菜:この植物は、別名サトウダイコンと言われる通り、やはり糖分を多く含んでいます。日本では北海道で生産されていて、寒冷な土地での栽培が盛んです。つまり、サトウキビの生産が適さない土地でも、甜菜によって供給は可能ということですね。

 さて、甜菜の歴史はサトウキビと比べるととても浅く、最初の製糖成功者は18世紀の科学者マルク・グラーフでした。また、広まった理由も興味深く、なんとあの悪名高いナポレオンの“大陸封鎖令”が原因となったというのです。

 先述した通り、砂糖はプランテーション農園からの輸入品であったため、イギリスとの通商断絶はドイツとフランスに深刻な砂糖不足をもたらしました。この問題に対して、ナポレオンが甜菜糖の生産を増加させたわけです。

 サトウキビは温暖な地方でしか栽培が出来ないため、現代の地図をみてもエジプト、ネパール、中国、メキシコあたりが最も緯度の高い生産地となっています。それ故プランテーションが発達する前は、サトウキビが栽培できた南イタリアを除き、ヨーロッパの国々はアジアに大金をはたいて売ってもらうか、はちみつで代用するしかなかったのでした。

 しかし、甜菜が砂糖になることが発見されると、ヨーロッパ人も砂糖に悩まされることもあまり多くは無くなりました。このことから、ファンタジー世界に於ける砂糖の不足を極端に心配することが無くなります! 上手く工夫すれば、現実のように、甜菜かサトウキビのどちらかが発見されないために砂糖や蜜が高級品であるという設定も作れてしまいますし、それが原因の戦争や対立があっても良いですね。

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