8.女ことば

 小説や漫画は、とにかくキャラクターの“キャラがかぶる”ことを嫌います。ですから漫画では、髪の色をひとりひとり変えたり、小説では一人称を変えたりといった工夫がなされます。しかし小説では絵に頼ってはいられません。そこで「女ことば」をうまく使えるようになると強みになります。

 ファンタジー小説に限ったことではないのは、上の文章を見ても明らかですが、我らがファンタジー世界は幸いなことに、この「女ことば」を登場させやすい環境なのです。だって、「姫騎士」やら「皇女」などなど、いかにも「てよだわ言葉」を使いそうなキャラがいるではありませんか! この特権を、是非とも発動していきましょう!



 「特有の語彙」

 次の短文をご覧ください。


・おなかへったなあ。


 さて、これを見て、別に何とも思いませんか? それとも少し気持ち悪いでしょうか? 

 “気持ち悪い”なんて感想を書いたのには、やはり理由がありまして、この文章が「男ことば」と「女ことば」の双方を含んでいるからです。「お腹」が女ことばで、対する「へった」が男ことばとなります。すなわち、正しくは――


・男ことば:はらへったなあ。

・女ことば:お腹空いたなあ。


 と表記すべきだったのです。

 このように、我が国の言葉には、「女ことば」特有の表現・語彙があります。また、感動詞には「あら」や「まあ」などが、一人称には「わたし」や「あたし」などが存在しますね(ちなみに、「あたい」という一人称は、どうやらもともとユニセックスな語だったらしいのですが、今では女性の一人称と化しています)。また他にも、「女房ことば」なるものも伝わっているではありませんか。「杓子」を「しゃもじ」、「水をくむ」を「お冷やしをむすぶ」と言い換える類の言葉です。

現実で使われることが少なくても(あるいはほとんど用例がなくても)、小説やゲームなど、創作物では未だに衰退の兆しを見せない、そんな不思議な言葉が、この「女ことば」なのです。その理由を一から解説すると、一冊の本になってしまうので、ここではあえて書きませんが、気になる方は岩波新書などから女ことばに関する本を探してみてください。



 「特有の言い回し」

 女ことばといわれたら、皆さんはどんな言い回しを想像するでしょうか?


・いいの。だって今も喜んでいるのよ。


でしょうか? それとも……


・よくってよ、きっと今も喜んでいるんだわ。


 でしょうか? 前者は一般的な「女ことば」。そして後者はその中でも「てよだわ言葉」と呼ばれ、区別されます。今でこそ「~~てよ」という言い回しは、おしとやかといいますか、高貴な印象をもたらしますが、実は話され始めた当初は「いやしい身分の娘」が使う、「知識と軽薄さの落度」の象徴として世間に浸透していたのです。ただ、これまた(少なくとも私は)説明には膨大な文字数が必要とされますので、気になる方は書籍でどうぞ。

 細かなことを言いますと、「てよだわ言葉」に「~~のよ」という言い回しは含まれません。こちらはれっきとした“正しい”女ことばです。しかし結局のところ、こちらも「てよだわ言葉」に取り込まれてしまうので、定義は曖昧になります。

 また、もう一つ。個人的な見解なのですが、「てよ」という終助詞は「感嘆」や「詠嘆」を表していると考えます。いくつかの文を見て導き出した経験則ですから、あくまで参考程度にとどめておいてください。以下に三つ例を挙げますから、確かめてみてください。


・桜、咲いたのね。

・桜、咲いたんだわ

・(あら、)桜、咲いてよ


 それでは、皆さんの描く魅力ある女性キャラクターをお待ちしています!

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