7. “一”の背景には“十”の設定

 

 この考え方は、私が同作品内で社会や魔界、魔法の深い部分にまで解説を施した所以でもあります。最初は第一章の導入部に明記しておこうと考えていたのですが、あまり導入部が長いと飽きられてしまうかと思い、結局ここまで温めておくことになったのでした。



 「”十”作る理由」

 ではなぜ描写する以上の設定(いわば背景)を作らなければならないのでしょうか。それも十倍とされていますね。正直ここは比喩なので、五でも二十でも構わないのですが……、量はともかく、“一”以上作る必要があるのです。

 私がこの結論に至ったプロセスを紹介しますと、ここに自分の履歴を書くのと同じになってしますから、理由だけ書き表しましょう。その理由とはすなわち、「矛盾を生まないため」です。


 ここまでお読みになった猛者ならお分かりかと思われますが、一つのオリジナル世界を創るのは決してやさしいものではありません。ですから、いくつかファンタジー作品を手掛けるという人は、基本的には同じ世界を使いまわしていくことになるはずです。そこで、最初の作品で説明したエルフの説明(歴史や民族性)が、その後の作品では微妙にずれていた、なんてことになったら、読者はともかく、作者の方もどちらを信じて良いのかわからなくなってしまいます。

 また、エルフについての設定を枠組みだけでも“描写の必要以上に”考えておけば、あとから再構築する必要もありません。また、その設定がいつ必要になるかはよほど綿密な計画を立てていないとわかりっこないですから、そういった点でもやはり、設定は多く作るに越したことはありません。



 「”一”しか書けない理由」

 Aさんは魔法を主題とした物語を執筆しています。するとAさんは当然ながら、その世界での魔法の定義を設定していかなければなりません。ですから、Aさんはしっかりとした魔法体系を形作るため、丸一か月間かけてそれを作成しました。魔法の属性や魔素、それぞれの相性や詠唱の文句など、これ以上作りこんだら軽く本が一冊作れてしまうほどです。

 さて、作品の土台はバッチリですから、あとは書くだけ。でも皆さん、これが曲者なのです……。

 もしここでAさんが、「せっかく作ったのだから、ほぼすべての魔法を解説してしまおう」とか、「魔法体系を解説し尽くそう」とか思い立って、その作品がほぼ魔法の解説に終わってしまったらどうでしょう? 物語というよりは、もはや魔法事典かグリモワールです。


 また魔法意外にも、先述した社会や魔界についてたくさんの背景を作ったからといって、全てを解説したとなればその行きつく先は“解説書”です。

 もう一つ言えば、読者の皆さんは必ずしも私たちのような“設定にこだわりをもつ人”ではないのです。それどころか、緻密な部分まで設定しつくされた世界を延々と見せられても困る、そういう方がほとんどであると思います。納得できましたでしょうか……?


 私の言い分は上記の通りです。必ずしも正しいとは限りませんが、ちょっとでも共感された方がいらっしゃれば、騙されたと思って実行してみてください。幸い、本当にあとで殴り込んできて「騙されたぁ!」って文句を言った方はいませんからね(笑)。

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