4.悪役論Ⅰ


 ファンタジー作品に限らず、多くの物語をドラマティカルにしてくれるのが、この「悪役」という存在です。悪役については私もいろいろと思うことがあったのですが、先日もはや「悪役学」の域に達していると感じた作品*をみて、この項を急遽挿入することになりました。……ええ、私は影響されやすい人間なのです。



 「悪役の種類」

 悪役を語るにあたって、まず必要なのは彼らの分類でしょう。下にザックリと分類しましたので、一読ください。


1.「絶対悪」:万人が“悪”と認める悪(当事者も“悪”と認めたうえでの悪)。

2.「必要悪」:何らかの目的のために必要不可欠な悪。

3.「両義悪」:当事者が“正義”と信じて止まない悪。

4.「不可解悪」:当事者のみが理解可能な“規則”に則った悪。


 以上4つに分類しました。一つ一つ追加説明を。

 1.「絶対悪」役は、レトロなRPGにおける魔王や、極悪非道な殺戮を行う独裁者などがこれに当たります。ただ、絶対悪者も自分の行為が正しいと思っているかもしれません。それを理解せずに“絶対”などという言葉をつけてしまうのもナンセンスですが、この問題を突き詰めていくと今度は“正義論”になってしまいます。そこで、カッコ内に狭義での絶対悪を追記しましたので、参考までに。


 2.「必要悪」役は悪に立ち向かう主人公などを指します。強大な敵に打ち勝つためには犠牲が必要な場合が多いですし、“目的達成のためには手段を選ばない主義”の主人公もいることでしょう。彼・彼女の殺しをいちいち”悪”と咎めていては、何もできません。

 正義に対してある程度の柔軟性が認められているならばこの正義(悪)は成立します。


3.「両義悪」役を作品に取りこめば、登場人物たちの心情が混同・複雑化し、深い物語の創作が可能です。勿論上記の悪が織りなす物語も素敵ですが、「両義悪」には単なる勧善懲悪では消化しきれない“違和感”をもたらす効果があります。通常違和感という言葉はマイナスイメージに捉えられがちですから、混乱している方もいらっしゃいますでしょうか? ご安心を。ここでは良い意味として使っています。

 良い意味の違和感とは何か? この疑問には魔王を例にとって説明していきます。

 ――王や国民に討伐を頼まれ、魔王の居城へと赴く主人公。彼はとうとう魔王の目前へとたどり着き、見事“悪”の打倒に至る――

……が、もし彼の人間を襲う理由が「人間に殺された家族のかたき討ち」だったら? そもそも人間が私利私欲のために魔界に侵略していたとしたら? 魔王や魔界の住民からすれば、当然人間の方が“悪”となるはずです。半分は悪と見做せるが、それ以上の悪とは言えない、「両義悪」とはそんな複雑怪奇な悪なのです。


4.「不可解悪」役。あえて誤解を恐れずに言えばサイコパス的な悪役です。「人を殺して快楽を得る」や「気に入らないやつは透明にすればいい」といった思考回路は、反社会的である以上におおよそ理解が困難です。いかなる場合も自分の主義に倣って行動するのは「両義悪」と似ていますが、理解されることが無いという点でそれとは一線を画します。

 この手の悪役を登場させれば、読み手が展開の予想をしづらくなりますし、ひょんなことから主人公を助けてくれるかもしれません。北欧神話のトリックスター、ロキ神は、時折神々に甚大なる恩恵を与えることがあるのですが、実はそれらはほぼすべて神々を滅ぼすための計画に繋がっていました。恩恵はあくまでです。

 扱い方によっては非常に有益な活動をしてくれ、なおかつ作者のご都合主義に合わせやすい「不可解悪」。万能な気もしますが、一番難しいのは彼らの性格・行動規則です。行動にある程度の一貫性がないと、作品を滅茶苦茶にされてしまうかもしれません。逆を言えば、設定をしっかりと肉付けておくだけで“カオス”を味方に付けることが出来るのです。



 かなり文字数を使った解説になってしまいましたが、悪役(もう“悪”についての文章になっている気もしますが)についてはもう一つお伝えしたいことがございますので、次項にて解説を施します。


――――――

*ベネ・水代 様の『魅力的な「悪役」について』:(https://kakuyomu.jp/works/1177354054880791043)です。

 拙作に「“悪役”についての項を収録しても良い」と快く承諾してくださったことに、この場でお礼申し上げます。

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