6.著名人 

 

 世に名が知れ渡るというのは、人間の求める最高の褒美であります。マズローの欲求五段階説でも、最上位には「自己実現欲求」がふんぞり返っていますね。人間の願望であり、さらに個人が偉業を成し遂げれば噂は風のように広がります。であるならば、著名人・有名人がいない世界というものは、ナンセンスです。他の作者とはここで一線を画してしまいましょうか。



「勇者」

 勇者と言えば、「王・魔王」と共に三大よく作中に出てくる著名人のひとつですね。自ら志願して勇者になったのか、横柄な王に突然宣告されて、100Gゴールドしか渡されずに魔王を倒しに行くのか。経緯は定かではありませんが、先ずはなぜ勇者が有名になるのかを導き出すために、いつもと同じように「定義」を考えましょう。

 簡単且つおそらく最も勇者らしい定義は、彼が魔王を倒す力がある、というものです。簡素なゲームシナリオにはピッタリの定義ですが……、もう少し練らないと、設定大好き人間からの支持を得られないでしょう。え、いらない?……。

このような案はどうでしょう? たびたび登場する「瘴気」を使うのです。勇者とは、「瘴気耐性を持っているのが第一条件」という設定もなかなか良いものではありませんか。するとどのようにして瘴気耐性のある人間が産まれるかという問題を解かなくてはならなくなります。例えば両親が瘴気に触れた経験がある。例えば片親が魔族など、理由はたくさん考えられます。ただ、後者を選んだ場合は、魔族の血を引く者が本来神のような存在である魔王を倒しに行く、という一筋縄ではいかない物語が意図せず出来てしまう可能性がありますが。


 さて、ここは「勇者」ではなく、「著名人」の項でしたね。そろそろ話を戻します。

 とりあえず、勇者が有名なのは、生命を脅かす存在を打ち倒してくれる力を有するためです。それゆえ、くれぐれも某RPGの勇者のように、勝手に人の家に入ってタンスを覗いたり、壺を勝手に割ったりさせないように……。

 しかしですね、人命の守護・救助をいわば運命として生き続ける勇者は、時折望まずに決められた自分の宿命にうんざりすることもあるかもしれません。周辺で騒ぎが起きれば必ずと言っていいほど頼られ(それ以上に、義務感に背中を押されることが多いでしょう)、魔王軍の暗殺者に命を常に狙われ、さらに敵に狙われることで、周囲の人間にも災いをもたらすことにすらなり兼ねません。著名であるゆえに起こりうる悲劇。メンタルも強くなければ勇者は務まらないでしょう。



「時代で見る著名人」

 古来より、識者・思想家は人々を動かし、また社会を動かしてきました。世界を動かす識者が支配者であることもあれば、王立研究所(アレクサンドリアのムセイオンやバグダードの知恵の館バイト=アルヒクマ)に通い詰める研究員だったり、ムハンマドのように商人だったりすることもあるのです。

 また、勇者のように力やカリスマ性をもってして世に名を広める者もいるでしょう。

 それ故一口に著名人と言っても、その仕事や達成したことは様々です。ややもすれば混沌が生じてしまう著名人という概念を、時代別に分類してみていきましょう。


初期:神権政治を行う王・占星術などを行う占い師・神官・戦士・魔術師

古代:王・法則、定理を発見した学者・雄弁家、カリスマ・哲学者、思想家・劇作家・宗教家・目覚ましい働きをした戦士・魔法使い

中世:王・思想家・学者・詩人、作家・宗教家・神父など、神に仕える職業者・義賊・目覚ましい働きをした戦士・魔法使い・哲学者、思想家・勇者・魔王

それ以降:王・音楽家、芸術家・思想家・発明家・勇者・(劇)作家・義賊・目覚ましい働きをした戦士・魔法使い・勇者・魔王・自国を中心とした論を展開する指導者


 まだかなり乱雑な雰囲気がありますが、ひとまずはこれで勘弁してください……。

元々新出の“著名人”だけをそれぞれの時代に書こうとしたのですが、逆に廃れていく職業・地位もあると思いまして、それも確認してもらいたく、前の時代に加筆していく形式をとりました。

 さて、いくつか説明を補足しておきたいものもありますので、下に書き連ねていきます。


・魔術師:ここでいう魔術師は、魔法を使ういつもの「魔術師」とは少し意味合いが異なります。ここではいつもの「魔術師」は魔法使いという言葉で表現しています。

 さて、いったい何が違うのか。それは魔法を権力として使うか、そうでないかにあります。ファンタジー世界には、現実にはない概念(魔法)がありますが、ここではまだ人類が魔法を発見していなかった場合のことも考慮してみました。皆が魔法を知らない時代に、不意にひとりの人間が魔法を使えるようになったらば……、その人は魔法を用いて周辺のムラやクニを統治するようになるかもしれませんね。

 日蝕を予期して“魔術”をみせた現実の「魔術師」とは違い、好きな時に魔法を発動できるのは、大きなアドバンテージです。ただ魔法体系が整っていない時代に、それを駆使できるかどうかは定かではありません。


・法則、定理を発見した学者:こちらは全員が全員当てはまるわけではありません。いくら後の世を発展させるような大発見をしたとしても、その業績は同じ学者にしか伝わりません。では、どうすれば有名になれるのでしょうか? 

古代ギリシャの数学者・宗教家、ピタゴラスは、様々な“魔術”を駆使して民衆を驚愕させました。もちろんこれによって彼はれっきとした著名人となります。その魔術とは、彼が発見した自然科学の法則や、もともと知られていた物理法則を応用して披露した一種の手品のようなものです。彼のように、学者でも一般大衆の気を引くパフォーマンスを行ったり、その人物の偉業を表す逸話が作られたりすれば、著名人となることが出来ます。


・劇作家:完全に古代ギリシャが元ネタです。有名ポリスのアテネでは、奴隷人口が市民の三分の一もあったといいますから驚きです。家事を女性と奴隷に任せた男性は暇なので、こういった娯楽を求め、哲学を語らうことが出来たのでした。

 ということで、奴隷制に立脚した社会を作るのであればスポーツ・学芸が盛んになるでしょう。


・魔王:そりゃもう、場合によっては人類を存亡の淵にまで追い込める存在にもなりえますから、知名度が低いわけがありません。ここでわざわざ取り上げた理由というのが、「初期」「古代」にその名が現れていないからというものです。

 私が思うに、魔界(魔大陸)が人間界と交流を持つのはある程度文明が発達したあとです。わざわざ大海原や山脈など大きな障害を超える危険を冒してまで人間界に行く意味が、文明黎明期に生じるとは考えにくいですもの。


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