「謎」は日常の中に
バレンタインチョコ事件
「おじさん、聞いてよぉ!」
いきなり事務所の扉が開くと同時に、ランドセルを背負ったままのカンナが大きな声を出した。カンナは小学三年生。私は毎朝、小学校へ向かう登校班の見守りを行っていて、彼女はその班のひとりだ。どうやら、だいぶお怒りのご様子だけれど……。
「今日ね、バレンタインのチョコを持って行ったの。帰りに渡そうと思っていたのに、昼休みが終わったら箱がつぶされてたんだよー! ひどくない?」
「そりゃ、ひどいなぁ。誰がやったか分かったの?」
「ううん……私が教室を出るとき、男の子が四人いたからゼッタイあやしいと思って話を聞いたんだけど――」
タケシ「オレはやってないぞぉ。カンナのものを壊すわけないじゃんかぁ」
「オレが教室を出るときはヒカルしかいなかったよ」
リョウ「ボクはやってないよ。教室に一人でいたことなんてなかったし」
「そう言えば、タケシがカンナの机のそばで何かやってたよ。
あいつがやったんじゃないの?」
ヒカル「箱? 知らなーい。教室を出たのは最後だったけど何も見てないよ」
「教室出てからは、ハヤテと校庭で遊んでたもん」
ハヤテ「校庭で遊んでたから、分からないな。もちろん、壊してなんかないよ」
「そう言えば、リョウが教室に入るのが校庭から見えたよ」
「みんな、やってないって言うんだよねー」
「そりゃ、仕方ないさ。ところで、カンナちゃんの教室って1階だったよね?」
「うん、そうだよ」
それじゃ、箱をつぶしたのは彼だな。
「えーっ!カンナの話だけで誰だか分かったの!?」
「嘘をついているのは、箱をつぶした一人だけで、他の三人は本当のことを言ってるはずだよね?」
「うん、そうだね」
「それじゃ、説明するよ」
まずはハヤテ君の話。もし彼が嘘をついていたとすると、一緒に遊んでいたというヒカル君も嘘をついていることになるよね。校庭からは教室が見えるし、ハヤテ君は本当のことを言ってる。と言うことはヒカル君の言うことも正しい。
ここまではいいかな?
そうすると、ハヤテ君が見た『リョウ君が教室にいたのはいつ?』ってことになるけど、タケシ君はヒカル君だけが教室にいたと言っていて、ヒカル君も最後に出てきた、って。
ヒカル君の言っていることと、タケシ君の言っていることは合っているから、タケシ君も正しい。
嘘をついていたのはリョウ君。みんながいなくなった教室に一人で戻ってきたんだと思うよ。
「すごーい!おじさん、探偵みたーい♪」
いやいや、これでも探偵だから。
「でも証拠がある訳じゃないし、リョウ君を責めないでね。
たぶんカンナちゃんのことが好きだから、やきもち焼いたというか、意地悪したくなっちゃったんだと思うよ」
「えーっ!………でも、おじさんが言うなら……そうする」
「それでね、これ――」
カンナちゃんがランドセルから取り出したのは、箱がつぶれたチョコレートだった。
「いつも、おじさんが守ってくれてるから、そのお礼」
ハイ、と差し出して、また明日ねーと機嫌よく帰っていった。
「よかったじゃない、バレンタインにチョコもらえて」
今日も制服のまま立ち寄っていた
「誰からも貰えないんだろうなぁと思って持ってきたけど……持って帰ろっかなぁ?」
「えーっ! せっかく持ってきてくれたんなら、俺にくれよ」
悪戯なまなざしで見上げる友華の笑顔に、思わず微笑んだ。
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