番外編
ダイイングメッセージ
「ちょっと待ってください!警部殿」
やはり黙って見過ごすわけにはいかない。たとえ、それがつらい結果でも。
「虎田さんは犯人ではありません」
「なに!?」
「差し出がましいようですが、話を聞いていただけませんか?」
返事を待たずに話を続ける。
「今夜のパーティーが終わりに差し掛かったころ、
腹部にはナイフが刺さったまま、明らかに他殺なので密室殺人と言うことになりますね。窓も鍵が掛かっていましたが、欄間のガラスが割れていた。割れた窓の下に落ちていたライターは、虎田さんのものと分かりました。
そして、決め手となったのは遺体が握りしめていたトラロープです。
これをダイイングメッセージと判断し、アリバイのなかった虎田さんを犯人と特定した………」
「ああ。状況証拠だが、重要参考人としては十分ではないかね」
「そうでしょうか。
今夜のパーティー関係者で、犯行時刻にアリバイがなかったのは3人。
不動産管理を行っている、虎田さん。
この邸宅の設計をした、菊池さん。
会場のセッティングをした、増本さん。
それぞれの犯行時刻におけるアリバイについては、字数の関係で置いといて――」
「ショートショートだからって、省くんかいっ!」
警部が自慢のヒゲをピクつかせながら、ツッコむ。
「密室のトリックも――」
「そこもかよっ!」
聞こえなかった振りをして話を続ける。
「そもそもトラロープのこと、鴻池さんは知っていたんでしょうか?
この黄色と黒のロープ、警察関係者の方は現場保存などで使うのでトラロープと言う呼称に馴染みがありますが、不動産王と呼ばれた鴻池さんが知っていたとは思えません。知らないのに、なぜダイイングメッセージとして使ったのでしょうか」
「うーむ………。それじゃ、いったい………」
「犯人はこれをトラロープと呼ぶことを知っていた。その上で、虎田さんに罪を着せるために、ダイイングメッセージを偽装したんです」
「なんじゃとっ!」
「そうだよな、菊池……」
突然名指しされた菊池は、明らかに狼狽しながら「なっ、なんで、俺が………」
「建築現場でも使うじゃないか、トラロープを」
菊池はがっくりと膝をつき、
「………あいつが悪いんだ……俺の仕事が少ないから足元を見やがって、設計料を半額にしやがった……」
「続きは署で聞かせてもらおうか」警部が菊池の腕を取り、部屋を出ていった。
「今日は母親が出張で一人なんだ」と言う
「あの人って、今夜のパーティーに誘ってくれた――」
「ああ、そうだ。昔の仕事仲間だよ」
「なんか……つらいね」
「悪かったな。せっかくのパーティーだったのに」
「平気。帰ろ」
騒然としている邸宅を出て、歩いているとユウカが言った。
「私、てっきりキイロとクロでキク……菊池さんか、と思っちゃった」
「おいおい、んなわきゃねーだろ」
※サムズアップ・ピースさんの企画「黄色と黒」への参加作品
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