第4話



「かあぁーーーー」

 メールの内容に大うけして、私は思わず感嘆の声を上げた。

 どんなリアクションをするか見てみたかっただけなのに、……もしかしてネカマと疑われメールが止まってしまうかと思ったほどなのに。



 彼女からの返信。

 そこには、内容こそ過激だが切々とした性に対する真面目な文章が続いていた。

 小学校時代から彼女にはそう言った興味があったようで、一時期、付き合った男とセックスするうちに、やがてその行為に至ったらしい。

 しかし、相手の男は粗暴なだけで彼女の感情など無視して面白半分に道具のように扱い随分とひどい仕打ちをしたようだ。好きだっただけに彼女は傷つき、自分の性癖を恥ずかしく辛いものと今は感じている……と。


(要するに変態ですな、お嬢さん)心の中で呟く。


 私は文面から目線を外さないよう椅子を斜めに座り直し、ジュースを口に含んだ。


(こいつ……適当に話、作ってるんとちがうん)


 性的な嗜好、云々うんぬんよりも、不倫関係で相手を思いやる感情があるかどうかの件まで来て、私はメールを読むのを止めた。どうせ暇なので、このメールの糞長い文章も結局は最後まで読むのだが……最近、集中力が続かない。


(○○は変態ですっと書いて、これをそのまま、どこかに貼り付けてやろうか)


 そう思いながらカチャカチャっとマウスを走らせ、同時並行でいつもの巡回作業を始めた。


 気になる文章が目に留まる。


 それは、嫌な奴の恥部を発見したよりも、格段にインパクトがあった。


 私は、夢中であちこちの断片を拾い集め、繋ぎ合わせて行く。




 信じがたいが、総合するとどうやらそれは…………祐樹。


 (まさか)独り言にもならず、心の中で止める。


 混乱しながら、私はパソコンの電源を切り、そのままベッドに潜り込んだ。













「都市伝説じゃないの?」

 真央は、私の体をまさぐりながら答えた。


 真央のアパートで、二人は時々この遊びをしている。お互いレズではないし、恋愛感情もない、あるのは友情。最初、酔っ払った時の冗談だったがどちらかが男日照りで、もようしたとき慰める。まあ二人オナニーなのかもしれない。

 今日は真央にお任せなので、私は目をつぶったままだ。


 最近いつものコミュで、暴走族のファンがお目当ての男に呼び出されその先輩たちに輪姦されたとの噂が、まことしやかに流れていた。


 まあ、この手の話は一杯あるし、単なる噂であることの方が多い。


(カップル襲撃)(逆走族の連れまわし)(山行き)etc……


 当事者ではなくあくまで聞いた話、それについて答えるのもあくまで聞いた話。




「あっ、うん」

 いつもながらの巧みなテクニックで、私はイッてしまう。頭の中では “嫌な男” に無理やりやられるイメージを膨らませていた。


「今日はイクの、早いっすな」

 笑いながら、真央はまだ執拗に触ってくる。


「だ・・め・」

 私は一回イクと敏感になり過ぎるので、体を引っくり返して逃げた。


「ストレス溜まってはりますなぁ。ま、祐樹って確定したわけじゃないだろうけど、一応、気をつけたほうがいいかも。あんた、完全にファンって認知されてるし」

 真央は飽きたのか、タバコに火をつけ美味しそうに煙を吐き出す。


 ヤンキーじゃなくても、祐樹のファンは私が知っているだけで何人もいる。


 その内の1人が被害にあったのだとしたら……。グループの集合場所、年齢、その他もろもろ、コミュで交わされる内容は私が知っている祐樹の知識に符合していた。

 まあ、他の族に詳しいわけでもないが…………



 暇そうにテレビを見ている真央のお尻のラインに、指をそっと這わす。

 真央は一瞬びくっとして、わざとそっぽを向いた。



  今度は、私がサービスする番だ。















 夏場は旨いものが少ないから、一度は誘いを断るつもりだった。

 ざらついた肌にいい感じに釉薬が垂れる深めの大皿に氷水が一杯に張られている。

 水貝みずがい。あわびの食感と旨みを存分に味わうならこれほど贅沢な食べ方はない。

 戸髙は、にこにこしながら私に酒をつぎ、自分は手酌でついだ側からくいっと飲みほす。彼の笑顔は、昔から誰もに愛される。

 老夫婦が営む小さな居酒屋で、彼らの故郷の和歌山からわざわざクーラーボックスで運んだ一品を出されるのも、彼の笑顔の賜物かもしれない。



「売り上げがさ……」

 大学時代の友人の話も目新しいものがなくなると、結局、仕事の話になる。

 パート勤めの勲に比べればもちろんましだが、家電チェーンの給料もひどい物だ。どの業界でも表向きの待遇と実際は違う。加えて戸髙は部下とのコミュニケーションの為、持ち出しも多い。昔から控えめで、思いやりのある男。

 冷酒で喉が落ち着いた頃、地鶏のつくねと軟骨が出てきた。旨みのある肉汁に押され、思わず生ビールを頼む。酒の順序が自分の好みと違うが、お任せで文句はない。


「イサキの刺身、この唐辛子のたれで食べてみて」

 この料理、飛び込みで入ったらいくら取られるか。



 大阪に来て間もない癖にもうこんな待遇の “行きつけ” を作る。もしも別れ際、彼の妻から何も聞かなければ、今夜も勲は感心しただけだろう。




 この屈託のない笑顔の裏に、本当に妻が言う壮絶な暴力が潜んでいるのか?



 勲は不思議な感覚とアルコールの中で、話を切り出すタイミング考えていた。













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