第2話 陰キャラ少年の体験(後半)

 放課後になり、帰宅部である僕は特に用事もないので、真っ直ぐ家に帰ろうとしていたが、読んでいる漫画の新巻が今日発売だったのを思い出した。

 校門を出てショッピングモールのある方向へ足を運ぼうとすると

「お前こっちのほうじゃないよな、やっぱり『未来点』に行ってみるのか?」

 と例の友達が顔を出してきた。

「だから僕はそういうの興味ないんだよ」

「だったら最初から俺の話を無視したらいいだろ?」

 僕たちは口論しながら歩き始める。別に仲が悪いわけじゃないけど、迷惑ばっかかかるからこうなってしまったのか…

「でもさ、もし未来の自分に会えたらお前は何を聞きたいんだ?」

「それがまず浮かばないんだよな…多分『家族は元気か?』とでも聞くんじゃないか?」

「まったく、お前にはおもしろみの欠片もないな もっと考えてみろよ。例えば…『次にブレイクする芸人のネタを教えてくれ!』とかさ」

 笑いながら彼は話す。

「馬鹿馬鹿しいわ、それで真似でもしてお前はウケたいのか?」

「そりゃ日陰者より人気者の方が楽しいだろ?」

「僕はそうは思わないね」

 こうしてだべりながら道を進むと、例の交差点に出た。

「じゃ、俺は家に帰るわ」

「おう、また明日」

 彼は交差点には渡らず、横の道へと向かっていった。

 ショッピングモールは交差点を斜めに渡るとすぐそこなので、僕は信号を待った。

 改めて考えてみると、未来の自分に会うというのも悪くないのかもしれない。

 重大な事件などを事前に知っておけば、未然に防ぐこともできるかも知れない、テストの答えを知り、高得点を取る事も可能だ。未来は不安ばかりで何が起こるかわからない。であれば、それを知るということは覚悟ができるということだからだ。

 僕は考え事をしながら渡る。情報を得るということは現代社会においてお金を得るのと同等の意味がある。だけど、質問は1つしか受け付けてもらえない。慎重に選ばないと…慎重に、慎重に……

 気がつけば僕は意識を失っていた。

 彼は一瞬と言っていたが、僕には数分間ぐらいのように感じた。まるで真っ暗な管の中を流れるように身を任せていた。


「う、まぶしいな」

 意識が覚醒し目を開けると、一面中真っ白な部屋にいた。だいたい教室と同じぐらいの大きさだろうか、ただ部屋にはたった1つを除いて何もなかった。

 そう、その1つというのは自分に似た青年だった。

「…はじめましてというべきかな?」

 青年は少し間を置きながら口を開いた。

「はじめまして、未来の自分さん」

「ああ、はじめまして、過去の自分さん」

 気まずい空間が広がる。正直、実際に会ってみると意外と変わっていないように見える、もしかして年があまり開いていないのだろうか。

「おっと、言っておかなければならないね。僕は26歳、ちょうど10年後だね」

 彼は気を配るように喋った。そうだ、ここで年齢を僕が聞いてしまったら『質問』となってしまうからか。

 ということは向こうも未来点について知っているのか。まあ、未来の自分はこの出来事も体験しているわけだし当然といえば当然という訳だ。

「さあ、言ってごらん 僕に聞きたい質問を」

 そうだった、僕はまだ考えている途中だった。どうしよう…


「……あなたは今、人生を楽しんでいますか?」


 僕は青年の目を見て尋ねた。頭にふと浮かんだ質問だった。

「…楽しいよ、嫌な事もたくさんあるけどね。社会人というのは今考えているよりかなり大変だと思うよ、でもね、それよりも楽しいことはいっぱいあるんだ。

 だから安心して今を生きてよ、未来を心配しているのも分かる、でも不安と同じぐらい希望はあるんだ、だから精一杯前を向いて進めよ!」

 色んなことを思い出すように少し考えてから彼は答えた。僕は彼が浮かべた笑顔を見て安心した。彼が僕を励ますためについた嘘ではなく、本当の意志だと感じたからだ。

「ありがとうございます、気持ちが楽になった気がします」

 僕は礼を言った、おそらくこれで僕は元の世界へ戻るんだと思った。しかし、


「じゃあ、君は今、人生を楽しんでいるかい?」


 後ろから声をかけられた。

「僕も質問を答えたんだから、今度は君が答える番だよ」

 彼は少し声を高くしながら話す。

『人生を楽しんでいるかい』僕は精一杯自分の気持ちを探る。彼女なんていないし、友達もあまり多い方ではない(変な友達なら結構いるけど)リア充というのにも離れた位置にいる僕だ、でも…

「楽しいですよ」

 僕は精一杯今を生きている、そして楽しんでいる。勉強も遊びも、友人関係も恋愛事情も、苦しいことも楽なことも、全部人生だ。それが未来につながっているのなら、未来を作っていくということなら

「楽しくない訳ないじゃないですか!」

 僕は声を張り上げて言った、いつのまにか彼が遠くへ離れていきそうだったから。

「そうか、それなら良かった」

 青年はそう言い、やはり姿が小さくなっていった。同時に僕も眠るように意識を失った。


 目が醒めると、元の交差点に戻っていた。

 立ち止まっていたようで、後ろの人がぶつかりそうになり急に止まるなと叱ってきた。

 前の人もさっきと同じだ。どうやら意識が飛んでから数秒も経っていないようである。

 あの記憶はもう夢のようにぼんやりとしてきたが、不思議となんだか前向きな気持ちになっていた。これから先どんな事が起ころうとも跳ね返せる、そんな意志が心の中に渦巻いていた。

 僕は考え事をやめ、信号が変わらないうちに交差点を渡った。


「あれ なんでここに来たんだっけ?」

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