第7話(番外編)夢見る頃を過ぎてもなお
健二君の話を聞けば聞くほどに、女の友情って一体何だったのかと考えさせられたのだ。
本気の仲良しかといえば、良くわからない部分も確かに会った。
私の仲間達は、いつも「その場にいない女」の、悪口を言う。
きっと、私がいない時は私の出番なのだろうなと思うと怖くて極力参加した。
参加出来ないパターンの女って、大抵決まっていて。
彼氏や、男がいる女ほどドタキャンをする。
「ごめん、急に彼が会いたいっていうから。」っていう理由とかね。
一応、「いいよ」とは言って許されるが、女子会ではドタキャン女のバッシング大会が始まるだけだった。
そんな訳で、基本的に女の友情なんて信じてはいなかったが。
しかし、まさか。
まさか、ここまで酷かったとは。
なんかもう、皆何処から何処まで嘘ついて生きてるの?
そんなにまでして、見栄張りたいの皆?見栄張って生きても苦しいだけだよ。
そんな事言ってる私も、実は皆に、ずっと嘘ついて生きてきた。
実は、皆に本当は35年バージンの癖に、経験済みという嘘をついている。皆とは幼馴染だけど、大学の時だけ唯一地元を離れて寮生活をしていた私。
この時期の頃の私の経歴は、完全に女子会で捏造されている。
「大学の頃、付き合ってた男がいた。
しかし、彼が海外留学したいといって遠距離になり段々会えなくなった。
日本に帰ってきたら、結婚しようと約束してた。
でも、彼はそのまま「カンボジアで学校を建てる」という夢を叶える為帰って来なかった。その後、どうしているかわからない。」
という、嘘くさいネタを話していた。
日本に住んでるとか下手に言うと
「えー、その人会いたいー!ってか、会いに行けばいいじゃーん?!」
と小春あたりが下手に話を広げそうで怖くて。
絶対誰も行きたくないような、「カンボジアで海外留学。そのまま、現地移住」設定にした。
いつか、嘘がバレたらどうしようかって。
ずっとビクビクしながら生きていた。
それでも、ずっとバージンだったと思われる方が恥ずかしいと思っていた。
一度でも、誰かに愛されたことがあるという経験があるか無いか。愛する人に、抱かれた事があるか無いか。これは、女性が生きていく上で大切な経験値だと思う。
私も、結局みんなと同じ「見栄っ張り」な生き物だったんだ。麻里子も、実は私と同じバージンだった。そして、「前の彼が素敵すぎたから」と言っていたのも、実はただの恋愛出来ない言い訳にすぎなかったのだ。
実際に、麻里子の側に寄ってくる男が理想の範囲の男ではないから相手したくないだけ。
微塵も相手にもされていない健二君と、現実に出会っている男達を、麻里子はずっと比べ続けるのだろうか。
生理の終わる頃・・・いや、墓に入るまで・・・。
そんな事を続けていたら、恐らく麻里子が男の前パンツを脱ぐ時は、介護の頃だけかもしれないだろう・・。
真弓は、結局兄の健二君に売られた訳ではなかったが、更なる恐怖の真実が待っていたのだ。
本当は、実父に虐待されていたのだ。多分、この真実を言う方が、彼女にとってはよっぽど恥ずかしかったし辛かったのかもしれない。せめて、愛するイケメン兄貴の友人に回されたとホラ吹いた方が、まだマシだったのかもしれない。
小春も、女子会の中で自分が優位に立つ為に。くだらない嘘をついたのだ。
グループの中で、少しでも優位にいたい小春は人の男を、手に入れて勝つ事でしか存在価値を見出せないのだ。
健二君が手に入れられないならと、強行突破で待ち伏せ作戦で、強引に麻里子を傷つけ。「私が奪った。」と、嘘までついた。本当に、何てくだらない集まりなのだろうか。
私たちは、学生時代から何だかんだでずっとずっと友情を続けてきたのだ。
その友情が、全て虚構に塗れた世界と知れば知るほどに。悔しくて悲しくて、私は涙が止まらなかった。
健二君は、そんな私の涙をそっと指で拭った。細くて長くて、美しい指・・。
食事に行った店は、予約せず入ったせいかカップルシートしか空いていなかった。
カップルシート。個室の上に、席は何故か隣同士で座るというシステムだった。隣同士の席の方が、おさわり展開に持っていきやすいからなのか?居酒屋の、カップルシートは殆どこのパターンらしい。
私は、カップルシートなんて座った事もなければ、
こんなに至近距離で男の人と飲んだ事などなかったので、ドキドキが止まらなかった。
ごめんね、健二君。あなたの事を、ずっとずっと屑だと思っていた。でも、それは皆が素敵な貴方を取られたくなくて、嘘の健二像を植え付けようとしていたのね。
麻里子が、あの頃私をあえて選んで健二君のクラスに連れて行っていた理由。
今、少しずつ思い出してゆくと「もしかしたら、本当は健二君の気持ちを知っていたのでは」という箇所が沢山あったのだ。
麻里子は、健二君と楽しそうに話す度に私をチラチラと見る時があった。
少し睨み調子の時もあれば、「どう?」と、ほくそ笑むような時もあった。
もしかしたら、健二君と自分の仲のよさをあえて見せつけていたのかもしれない。
クラスから帰る時は、「健二君に、こんな事言われちゃったー!」と、自慢話のオンパレード。
私は、それをハイハイと聞いていたが。
今思えば、少し無理して話している様な雰囲気もあった。
本当に、お互い愛し合っているのならば自慢することも見せつける事も、あえて不要だった筈。
それを、あえてすることで「私が、健二君を好きになることが出来ない」環境を作っていたのかもしれない。
大人になってからも、麻里子はずっとずっと私に「健二君以上の人はいなかったわ」と、嘘を言い続けたのだ。
本当は、一度も愛される事などなかったというのに・・。
やがて、健二君は私を大きく逞しい腕でそっと抱き寄せた。
「こんな事・・・こんな事。許される事じゃないってわかってる・・・。
俺には、もう美しい妻も子供もいる・・・。それでも、ずっと由香里ちゃんの事が忘れられなかったんだ・・・。
本当は、あの時ずっと喋りたいって思っていたんだ・・・。」
やがて、私たちの唇は重なりあい、激しいキスが始まったのだ。私にとって、初めての異性とのキスだった。
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