「採点の時間」(11)

 試験が、終わった。

 少なくとも俺の目にはそう映った。

 スターゲイザーをまともにくらったスペードは、地に伏せてぴくりとも動かないし、ナナはと言えば、なんかぼうっとしているけど取り敢えず意識は有るっぽい。

 これで勝ちでなくて何なのか。

 あれ? そもそも、勝てばそれでいいんだっけか。


「ナナ、どうなんだこれは」


「分かんないです」


「一人前の魔法少女になったような感覚は有るか?」


「無いです」


 そうなのか。全裸になった意味無かったのかな。


「くひ。くひひ。くひひひひ」


 ――背筋が凍るような笑い声が聞こえる。デザートか、と思う前に、まるで最初からそこに居たかの様にぬっと姿を現す。


 「スペードのお嬢ちゃんを倒したのもそうだけど、こんなやり方でなんてね。面白い……本当に面白いね、二人とも」


「はあ」


「あ、デザート」


 ナナの反応がワンテンポ遅れてる。本当に大丈夫かこいつ。燃え尽き症候群ってやつなのか。知らんけど。


「えーっと、じゃあ、採点の時間といこうかな。確かスペードのお嬢ちゃんが、『卒業見込みの無い魔法少女に引導を渡す』だったよね。と言っても、見込みのない魔法少女は、まだまだ居るの……。試験継続、なのかな」


 うおっと。まだフワフワした気分なのに、いきなり採点が始まってしまった。


「……」


 魂の戻ってきたナナも、顔を強張らせて、両手を固く握っている。やっぱり緊張するよな。試験の結果ってやつは何時だって。


「問題は『一人前の魔法少女になる』の方なの。正直言って採点するなんて思わなかったな。採点対象とも思ってなかったしね。でも、スペードを倒したってなったら、百点どころじゃないの。どっちにしろ、これは、わたしの一存では決められないかな」


 むう。そうなのか。

 そもそも魔法界からしたら、回答用紙も渡してなかったようなものだしな。なぜか満点の回答を用意しちゃっただけで。


「待ってください」


 ナナの声。スペードかと思った。お前がストップかけるのかよ。


「スペードと同様、あたしの採点もまだ早いです」


「…………?」


「えーっと、どういうことなのかな。これからハートも、ダイヤも、クラブも、倒してくるって言う意味? 確かに、それなら……」


「違います。あたしにはやり残したことがあるんです。それが終わるまでは、試験は終わりません」


 何を言い出しているんだろう。茫然のあまり棒立ちである。全裸、茫然、棒立ちである。捕まらないかな、俺。


「それを決めるのはわたし達だと思うけどな。一応、聞いておくけど、何をやり残したのかな」


「バイトです」


 バイト? 何言ってんだコイツ。


「うーん?」


「あたしは彰彦さんの原付をぶっ壊しました。これは魔法界の重大なルール違反ですよね。それを弁償するまでは、少なくとも『一人前の』魔法少女とは言えないと思います」


「…………」


 デザートは腕組みをしたまま、何も言わない。俺だって同じだ。まさかこんなところで原付が出てくるとは。

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