「採点の時間」(7)

 犯人はお前だ、みたいなポーズ付きで。


「……ちょっと」


「ダサいですね」


 ナナも同じことを思ったらしい。俺が言い終わる前に被せてきやがった。


「そんな口が利けるのも今だけよ、ウィーク。あと数分で貴方は消し炭になるのだから。ちゃんと遺書は書いてきた?」


「そっちこそ負けた時の言い訳は考えてきたんですかー? あたしに負けたら一族を追われるんじゃないですか?」


 何だろう。煽りあってるつもりなんだろうが、言葉が拙すぎて全然迫力が無い。というかむちゃくちゃ可愛い。魔法『少女』だけあって、語彙が追いついていないのだろう。


「ふん。言うじゃない。もしかして、ナナなんて呼ばれているから、『ウィーク』と名付けられたことを忘れたのかしら」


「昔の話です。魔法少女スペードの亡骸をもって、『ウィーク』は卒業です。『ウィークエンド』になります」


 それただの『週末』だぞ。というか、二人とも相手を殺す気なのか? 魔法界野蛮すぎて怖いわ。


「ふん。ワタクシ相手にそれだけ減らず口が叩けるなら心配は要らないわね。そこの人間」


 え。呼ばれた?


「はい?」


「危ないから下がってなさい。そこに居られては、巻き込まない自信が無いわ」


 なんか戦う系のヒロインみたいなこと言ってる。主人公より強い感じの。

 俺はスペードを無視して、ナナの方に視線を投げる。まあ、いいんじゃないですか、みたいな顔をされた。


 何でお前がそんな態度なんだ。


 まあ、断る理由も無いし、おとなしく二人から距離をとっておくことにしよう。

 ナナとスペード、二人の魔法少女の視線を一身に受けながら後ずさる。五メートル、十メートル……三十メートル。このぐらいか? いや、もう少し、


「痛いの」


 何かにぶつかったと頭が理解する前に、誰かの声が聞こえてきた。

 慌てて振り向くが、砂利と土が広がるばかりで、特にぶつかりそうなものはない。

 魔法少女二人も怪訝そうな表情だ。


「わたしだよ。皆無なの。出来れば自然にふるまってほしいかな」


 成る程。姿を隠していた魔法使い『デザート』にぶつかってしまったらしい。

 俺はなるべく平静を装いながら、腕を組み、あたかもここで止まるつもりだったような空気を演出する。


「まあまあ、上出来なの。ちなみにわたしの声は二人には聞こえてないからね」


 そういうものか。何かもう慣れたものだ。それぐらいは出来るんだろうな、って感じ。


 少し気を抜いた途端、右手に何かに掴まれたような感触。慌てて右手を見ても、もちろん何もない――映ってない。


「くひひ。またぶつかってきたら困るから、捕まえておくね」


「え、あ、はい」


 デザートに手を握られたという事らしい。意識したらちょっとあれだ、恥ずかしい。手汗とかかいてないだろうか。


「ほうら、始まるみたいよ」


 デザートはこっちの気も知らず飄々と告げる。

 見れば二人は魔法服から、何かキラキラとしたオーラのようなものを出しながら、今にも飛びかかりそうな構えを取っていた。


「ワタクシはもう名乗ったわよ?」


「……魔法少女ウィーク、『卒業試験』開始します」


 土曜日。時刻午前十時。

 試験が、始まる。

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