「採点の時間」(6)

「意外と緊張とかしないもんですね」


 午前九時半。無事に朝食を取り終えた俺とナナは、決戦の場へと歩みを進めていた。


 俺はジャージで、ナナはメイド服。何なんだこの二人。


「そんなものなのか。俺は定期試験の時とか、律儀に毎回緊張してるんだけどな」


「気が小さいんですね、彰彦さんは」


 そうかもしれない。

 大胆とか、果敢とか、最も遠い位置にいるのが俺だ。

 ナナは多分、逆だろう。


「……勝てるか?」


「どうでしょうね。正直、あんまり自信は無いです。でも、勝つつもりだって、言ってくれましたからね。やれるだけのことはやりますよ」


「……そうか」


 肝が据わってやがる。俺の方がビビってるぐらいだ。


「もうすぐですね」


 既に俺たち二人は、昨日二人の魔法少女と遭遇したところまで辿り着いていた。あと数分で空き地だ。


 あの二人も、見に来るようなことは言っていたが、どこにも見当たらない。人間の俺には思いもよらぬ方法で隠れているに違いない。そしてそのうち一人は酒を飲んでいるに違いない。


 少し羨ましい。酒でなく、気楽さが。


 だが、それは俺が言うべき――思うべきではないのだろう。今回、たまたま当事者に近い位置にいるだけで、今まで色々なものを傍観してきたのは俺の方だ。ナナの卒業試験、その結果に関わらず、俺はそろそろ俺の人生を生きるべきなのだ。――例え無様に負けるとしても。


「どうしました、彰彦さん?」


「……何でもない。それより、スペードの奴はもう来てんのかな」


 別にスペードの動向はどうでもいい。ただ話を逸らしたかっただけだ。しかし、約束の時間には少し早いのも事実で、我ながらまあまあ上手い返答だと思った。


「居るでしょうね。あのバ……いえ、スペード家というか、あの人たちって真面目というか、礼節を重んじるというか」


 ふうん。そんなもんか。そして今、馬鹿って言いかけたな。


「この会話も聞かれてるんじゃないですかね。スペードの魔法がどの程度、どの範囲まで有効なのか知らないですけど」


「なるほど。そういうのは言わないものなのか」


「です。自分のスペックを知られるのは、本当に命取りですからね。あたしはそんなに気にしてないですけど……ほら、着きますよ」


 大した距離も無いけど、随分歩いた気がする。空き地はナナのゴミ処理活動もあって、かなり開けていて思ったより見通しが良い。


 そしてその中央で。


「魔法少女ウィーク! スペード家は一角、スペードが相手になるわ!」


 馬鹿が叫んでいた。

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