20 株式会社がない
この国には株式会社がない。また持ち分会社(合名会社、合資会社、合同会社)もない。そもそも会社がない。
この国で認められている唯一の事業体は特定目的グループ(SPG)である。グループは他の国の社団に相当する。グループは半有限責任であり、グループの構成員や出資者は事業による損失や損害に対して、出資額またはグループからえた年収の5年分を限度に連帯して賠償責任を負う。これは他の国でいうなら退職給与積立金が賠償金に充てられることを意味する。
特定目的グループの設立は登記制で、登記されると法人格を取得する。未登記のグループには権利能力がなく、契約当事者にも訴訟当事者にもなれない。グループの設立目的は営利目的と非営利目的を区別しない。したがって営利グループと非営利グループの区別もない。他の国の宗教法人、教育法人、社会福祉法人、NPO(非営利団体)、地方公共団体も、この国ではすべて特定目的グループとなる。
社団と財団の区別もなく、寄付行為は財産管理を目的とする特定目的グループ(財産管理グループ)が受ける。
グループの経営はグループの構成員の総意で行い、意思決定や契約行為をするための代表者、役員、代議員、評議員を置いたりはしない。これはグループの合有(合同所有)といわれる。グループの総意は経営委員会の総意として表現される。総意は合意ではなく、多数決で決めるものでもない。グループの構成員はだれでも経営委員会の委員になれる。他の国の会社における社長と社員あるいは経営者と従業員に相当する区別はなく、構成員の全員が対等である。経営委員会は委員長を置かない。経営委員会はマネージャー(資金管理者)を指名し、登記することができる。マネージャーはグループの代表者(CEO)ではなく、おおむね他の国の会社のCFO(最高財務責任者)に相当する。
グループには経営委員会のほか、人事委員会、報酬委員会、監査委員会、環境委員会、近隣委員会、その他任意の委員会を設置することができる。経営委員会以外の委員会は、外部から専門委員を招聘することができる。
仮人は仮人だけで、または仮人と人を構成員としてグループを設立し、またはグループに参加することができる。仮人が結社する権利は当初は否定されていた。しかし徐々に権利が拡大され、現在は人との一切の差別が撤廃されている。
このようなグループの経営形態は大規模経営には向かない。どの国でも大企業の経営は官僚的であり、実際に官僚化している。大企業経営は国家に擬せられ、財源が安定しており、滅多なことで倒産することはなく、経営者が経営責任を問われることもない。この無責任化が官僚化した大企業経営の特質である。大企業が倒産したとすれば、その負債額は到底経営者個人が負えるものではなく、経営責任の追及は形式的なものにすぎない。つまり大企業の経営は事実上無責任化されている。経営規模が大きくなればなるほど不都合の隠蔽が悪質になり、ガバナンスが失われていく。官僚組織を一切の不祥事が隠蔽されたブラックホールであるとすれば、大企業はそれでもまだわずかに光が漏れてくる中性子星である。
この国の官僚はすでに責任能力を免脱された人工知能に置き換えられている。同様にしてこの国の大規模グループは人工知能によって特別経営委員会が組織されており、経営は徹底的に脱責任化、脱人間化している。身体性(対人関係)が必要な仕事には仮人を従事させるため、仮人が経営しているように見える大企業もある。名物的仮人にスティーブ・ジョブズばりの新製品プレゼンをさせている大企業もある。しかし仮人が特別経営委員になることはない。大規模グループは人工知能が経営する特定目的グループである。これを人工知能によるグループの独有(独占所有)という。
人工知能には責任能力がないため、特別経営委員会を設置した大規模グループでは責任財産の積み立てが必要になる。責任財産(流動性自己資本)は年商の2分の1以上かつ負債と同額以上と定められている。
結果的に人または仮人が自らの責任において経営するのは中小グループだけである。
グループの設立資金や運営資金を出資する者は他の国と同様に出資者とよばれる。出資は投資銀行またはファンドが行う。これは投資であって融資ではない。融資は短期に限られている。融資には担保をとってもよいが、投資には担保をとってはならないとされている。銀行もファンドも特定目的グループである。出資者は出資者委員会を設置し、会社の経営や人事に意見を述べることができる。出資者委員会はグループの機関ではなく、意見に拘束力はない。
株式会社の株主とは異なり個人(人または仮人)はグループの出資者にはなれない。すなわちオーナーグループは存在しない。ただしファンドの単独出資者にはなれる。出資者の全員が血縁者であるファンドを同族ファンドという。これは他の国の同族的持株会社に類する。これをグループの相有(相対所有)という。
外国の会社が国内にグループを設立し、または出資によって傘下とした場合でも、外国の親会社や外国の出資者がグループの経営権や人事権に関与することはできない。
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