そして、ペンを取る

 これでしめくくれたらきれいにまとまるのだが、あいにくとこれは現実である。

 物語りのようにすっきりとは終わらない。

 猫も人も現在進行形で喪失感に苛まれている。

 猫は夜中にあおーあおーと泣きながら家中走り回り、どすーんと人間の上に飛び乗って「なんでー!なんでいないの!」と叫ぶ。撫でて説明しながら、人間も涙声になる。家に来てからずっと、ざんくろーさんと一緒だった。彼女にとって、ざんくろーさんのいない生活なんて「有りえない」のだ。

 かと思えば窓からじっと庭を見ている。

 もしかしたら、どこかに出かけていると思ってるのかもしれない。なかなか帰って来ないから、探しているのかもしれない。 

 

 クッションとソファのすき間から、骨ガムが出てきた。昨年上京した時、友人にもらったお土産だ。

 お気に入りのおもちゃと一緒に隠してあった。噛んだあとがいっぱいついていた。


 君を失って私は空っぽだ。

 書くことしか取り柄がないのに書くことができない。

 創ることしかできないのに創ることができない。

 君がいない現実に、全て押しつぶされる。

 死ぬ直前の三日間が焼きついて、幸せだった記憶が見えない。


 ならば。


 しか考えられないのなら、を書こう。

 ノートを選び、ペンを取る。


『私の犬が死んだ』

『2018年、1月8日』


 書くことは、生きること。

 書くことが、救いとなる。


(さよならウィンタードッグ/了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

さよならウィンタードッグ 十海 @toumi_t

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ