2018年1月7日昼

 人間の食べる物が尽きてしまった。

 幸い、ざんくろーさんの容体は安定している。

 超高速で買い出し+初詣で。

 食品の買い出し中に夫が言う。

「今夜はワイン飲んでいいかな」

 血の気が引いて、全身がわなわなと震える。

 私は車を運転できない。夜にざんくろーの容体が急変したら、運べない。夫は酒に弱い。好きなのだが弱い。一人で酔っぱらわれたら、何を話してもとりあってくれなくなる。ただへらへら笑うだけ。私は逃げ場も無く取り残されてしまう。

「……ごめん、やめとく」


 帰宅しても、ざんくろーは迎えに出て来なかった。

 庭に出ると言うので出してやると……

 物置と植え込みの間にもぐりこむ。

「どうしたの。どうしてそんなとこに入るの?」

 不吉な予感。

 死にかけた動物は、本能的に狭い所にもぐり込む。気温が下がり、雨がパラつく。どうする、無理にでも連れ戻すか?

 このまま体が冷えたら、体力が削られる。

 迷っていると、自分から戻ってきた。抱き上げて、縁台に上げた。


 食べさせても吐くようになる。水は飲む。だが嘔吐は脱水症状が怖い。

 無理に食べさせるのをやめた。


 夕方。苦しげな声をあげて、糞のような茶色い粘つくものを吐く。

 四年前、二十年連れ添った猫が逝った時を思い出す。

 同じ症状だ。あの時は輸液で永らえた。しかし、ざんくろーさんの場合は腹の中に元凶がある。

 リスクを承知で入院させて、点滴するべきか。それで改善するのか? 知らない場所で死なせてしまったら?

 五分ごとに浮き沈み。どうする。どうすればいい。

 私と、夫と、猫で見守る。時間がじりじりすぎて行く。待つしかない。そばにいることしかできない。

「よしよし」

 声をかけると、ふーっと力が抜ける。安心するのだ。

「よしよし、ざんくろー、よしよし」

 

 深夜。とうとう縁台から降りられなくなる。しとしとと降る冷たい雨の中、何度も降りようとして前足を出し、引っ込める。何度も何度もくり返す。見かねて声をかける。

「ざんくろー、戻っておいで」

 振り返り、中に入ってきた。

「家の中でしていいから。ちっちしてもいい、うんちしてもいいから。ママが片づけるから」

 それでも、この夜を境に排便しなくなった。

 出すものがなくなったのか。

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