2018年1月5日
好き嫌いが激しくなる。しかし、好物を与えると喜んで食べる。
魚、さつまいも、キャベツ、みかん、いちご、豆乳、ヨーグルト。食べてくれれば、それでいい。
心配していた尿の出方も、処方された薬で改善しているように見えた。
相変わらず踏み台を飛び越えて、ソファのお気に入りの場所で寝る。風呂上がりの夫と並んで座って、サッカー中継や録画したサスペンスドラマを見る。黙って並んで座って、そのまま寝る。
この日は午前中、雨がパラついていて寒かった。しかし昼を過ぎてから次第に明るくなり、午後にはまぶしいほどの青空。冬特有のにごりのない青。
「ざんくろー、散歩。散歩だよ」
コートを羽織り、リードを持って声をかける。ソファから身軽に飛び降り、足下に寄ってきてしっぽを振った。
いつもの散歩コースを行く。近所の公園、三つを拠点にひとまわり。早足でとっとっとっとと歩くが、決して私を追い越さない。
子犬の頃に教えたリードウォークを律義に守っている。「ヒール」のコマンド無しでも、ちゃんと後ろを歩く。
コマンドを口にするまでもなく、使い古したリードだけで意志が伝わった。仕草だけで座り、伏せ、待った。絡んできた不審者に吠えかかったことがある。信号無視でつっこんできた車に立ちすくむ私を強引に引っ張り、寸での所で難を逃れたこともあった。
公園に入る時は休憩。リードをゆるめて好きなように歩かせる。あちこちでにおいを嗅ぎ、マーキング。そしてペットボトルの水で私が洗う。
子犬の頃は最初の公園まで。成長とともに範囲を広げ、若い時分はかなり遠くまで歩いた。その後、年をとるにつれてまた近くに戻る。
高台の上で足を止める。
ここは、特別見晴らしが良い。重なる屋根と屋根、間を走る道、遮るものが何もない。
西の空を夕陽が染める。にごりのないオレンジ色。
13年歩くうち、家の並びも住む人も変わった。私も、犬も、老いた。
夕陽は変わらない。
「きれいだねー」
話しかけるとこっちを見あげる。
「また、明日も来ようね」
祈りをこめた言葉だった。病を知ってからは、口にせずにいられなくなった言葉。
家に帰ると、入り口の上り段をとっととっとと飛ぶように駆け上がった。
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