2018年1月4日
大学病院での検査の日。
幸いにも、大学病院は夫の職場の近くだった。バリケンにお入りいただいて、車で出発。途中まではクンクンと鼻を鳴らしていたが、話しかけているとそのうち床にぺたーんと寝そべり、静かになった。
予約した時間より少し早く到着。
待合室でまつ間にも、他の犬や飼い主さんがやって来る。
静かだ。
ここに来るのは、町の獣医さんでは対応しきれない症状の子なのだ。うちの子もそのはず……なのに動く動く。受付のお姉さんに「かわいい」といわれてしっぽを振る。
物おじしないやつ。
やがて順番が来て、診察室へ。
実はこの病院、以前、ざんくろーさんのおばあちゃんにあたる犬が入院して、大暴れした所だった。
御年十一歳にして靭帯を切って手術、抜糸の際に暴れて最終的に男子学生四人がかりで押さえ付けた。
そんなジャック・ラッセル・テリアが来ると聞いて「暴れん坊きたこれ!」と備えたのだろう。
診察台の前には筋肉ムキムキの男子学生が二人、腕組みして待ちかまえていた。
ヤバい。ざんくろーさんが一番苦手なタイプだ!
あわてて押さえ付ける。
「何か気をつけることはありますか?」
「女の人が好きです!」
すーっと筋肉男子は後ろに下がり、控えていた女子学生さんたちが前に出る。
お姉さんたちに「かわいい」と言われ、なでられ、問診の間中ざんくろーさんはごきげんだった。
※
検査が終わるまでの間、本を読んでいたはずなのだが内容を覚えていない。夫といろいろ話もしたはずなのだが、まるごと記憶から抜け落ちている。間に飲んだコーヒーの苦さばかりが舌に残る。
落ち着いたふりをした、落ち着かない一時間半が経過した。
検査が終わり、迎えに行く。
「ほーら、お母さんがきたよ」
お姉さんになでられて、やっぱりざんくろーさんはご機嫌だった。
しかし、結果は厳しい。
大きな腫瘤が尿管を圧迫していて、腎臓から膀胱におしっこが流れない。膀胱からおしっこが出せない。尿カテーテルも通らない。
それでも今、ちゃんとざんくろーさんがおしっこを出してるのは、彼の力と根性の成せる技だと言う。さすがだジャック・ラッセル・テリア、小型に凝縮された大型犬。
腎臓に負担がかかっていて、血液検査の結果がよろしくない。クレアチニンの値がかなり高い。腫瘤があるのが前立腺なのか膀胱なのか現段階ではわからない。病理の結果を待って、来週の水曜日にCTスキャンを受けることにした。
「おしっこが出なくなったら、電話してください」
「はい」
外科手術で除去する場合は尿管バイパス手術をしなきゃいけない。
果たしてざんくろーさん、お腹に尿パックを大人しくつけてくれるのか?
前立腺の場合は骨盤を切らなきゃいけない。
犬にとっては足腰が立たなくなることを意味する。歩いたり走ったりできなくなったら、ざんくろーさんにはきっと死ぬより辛い。騒ぐために生まれてきたような犬なのだ。
炎症をおさえる薬を処方され、少しでも尿管の通りがよくなるように望みをかける。抗がん剤の効く腫瘍であることを祈る。
夫と話し合った。
最後の日まで、ざんくろーさんが犬としてお気楽に、幸せに暮らせるように全力で介護しようと決めた。
今にも泣き叫んで表に飛び出したいけど、そう決心した。
実際、この時は元気だったのだ。だれの目から見ても、10日の検査まで今のように過ごしてくれると信じられるくらいに。
帰宅後、水をがぶがぶ飲んで、げーげー吐いて、また水を飲む。車酔いしたらしい。その後、庭に出て長々とおしっこをした。
「よし、出てる。大丈夫、出てる」
猫は留守番がよほどさみしかったらしい。こたつから出てきて、にゃがにゃがと抗議した。人間が留守の時は、ざんくろーさんと過ごす。そのざんくろーさんが、今日はいなかった。
「ごめん。さみしかったね、ごめん」
なで回してご機嫌をとっていたら、ざんくろーさんが鼻をつっこんできた。一匹が来ると、結局、二匹が来る。
検査のために、お腹の毛を刈られて寒かったらしい。ざんくろーさんはホットカーペットの上に、ぺったりと腹ばいになって眠ってしまった。
「ゆっくりおやすみ。がんばったね」
この日の散歩は休んだ。
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