9#キタキツネのチャンタが父になったこと

 キタキツネのチャンタとツモはハマナスの咲き乱れる砂浜の前に巣を構えた。


 チャンタは巣で身ごもっているツモのことが心配だ。




 チャンタは走りだした。


 訳もなく走りだした。


 もうすぐ僕は!


 もうすぐ僕は!


 キタキツネのチャンタは大空を見上げた。


 鳥もゴム風船も飛んでいない大空。


 キタキツネのチャンタはソワソワした。


 もうすぐ・・・


 もうすぐ・・・


 もうすぐ・・・!




 おぎゃあ!おぎゃあ!




 「ひゃっほう~~~!!生まれた!!生まれた!!僕に赤ちゃん!!僕に赤ちゃん!!」


 キタキツネのチャンタは歓喜した。


 チャンタの長年の“夢”だったいっちょ前の本当のキタキツネにチャンタがなった瞬間だ。


 母となった雌ギツネのツモは、巣穴の中で生まれたての赤ちゃんギツネに乳をあげていた。




 砂浜にはゼニガタアザラシのエーダが海から上がっていた。


 「おーい!チャンタ~!遊ぼうー!」


 「よう~!エーダ!聞いて!聞いて!僕、パパになったんだ!!いいだろ~!」


 「チャンタ~!遂に父ちゃんか!そりゃおめでとう~!!」


 キタキツネのチャンタとゼニガタアザラシのエーダは互いの鼻の先をくっつけあって、鼻息をフッフッ!と互いに出した。



 

 やがて、雌ギツネのツモが巣穴から出てきた。


 「よくやったな、ツモ・・・」


 「ありがとう、チャンタさん。」


 「僕の“夢”はまだ途中だ。子供達を無事に育てあげることだ。君は?」


 「私はあなたと幸せな生活をすること・・・かな?」


 「お互い頑張ろう。」「うん。」





 何十日か過ぎた。


 チャンタとツモの子ギツネ達はすくすくと育ち、互いに取っ組み合いまでするまでになった。


 キタキツネのチャンタは巣穴に母ギツネのツモを置いて、子ギツネとツモのために食べ物を探す。


 キタキツネのチャンタは立ち止まって空を見る。


 大空には黄色い風船がフワフワ飛んでいた。


 「どこに行くのかなあ。あの黄色いゴム風船・・・!」


 太陽を浴びてキラキラ輝く黄色いゴム風船を視界から見えなくなるまで、キタキツネのチャンタは見送っていた。





  ~FIN~

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キタキツネと黄色い風船 アほリ @ahori1970

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