7#森の動物達とオオカミに会ったこと
森の動物達はみんなで奪い合って萎んだ黄色い風船を取りあげ、走り去った者を追いかけた。
しかしその者はとても脚が速く、なかなか追いつけなかった。
どの位広葉樹の森を深く行っただろう。辺りはすっかり暗くなり、薄日が差すだけとなった。
「ここのどこかにいるかも知れない・・・」
キタキツネのチャンタはその者の気配を感じとった。
ずっと続くうっそうとした森。
どの位歩いただろうか?キタキツネのチャンタはすぐ前に光か差し込むのを発見した。
ずんずんずんずん・・・どんどん行く度に光の差す場所は近くなった。
そして・・・やっぱり!
一頭のエゾオオカミが一筋の光を浴びて立っていた。
キタキツネのチャンタの憧れのエゾオオカミだ。
一説に既に人間に滅ぼされたと思っていたエゾオオカミが、すぐそばにいることにキタキツネのチャンタは感激の余り涙が溢れた。
「やあ・・・」エゾオオカミは森の動物達に話しかけた。
「やあ・・・」森の動物達も緊張した面もちで挨拶した。
「みんなしてどうしたのかい?」エゾオオカミは言った。 「あの・・・」キタキツネのチャンタはエゾオオカミの脚元の萎んだゴム風船を差した。
「ゴム風船・・・あ・・・あれね・・・わたくしも一緒に混じってゴム風船取りたかったけど・・・来たらまずいかなっと思って・・・。」
そして森の動物達はエゾオオカミに自己紹介をした。
そして「ぼ・・・僕は・・・キタキツネの・・・チャンタと言います。」
「チャンタ・・・おお!あのチャンタか!」
「おいおい!あのエゾオオカミ様と知り合いなのかよ!」エゾシカのシコタはキタキツネのチャンタに耳打ちした。
キタキツネのチャンタは思い出した。両親が人間の“えきのこっくす”予防の為に殺され、一匹残ったチャンタを不憫に思って子オオカミと一緒に育てられたのだ。
「お久しぶりです。エゾオオカミのカムさん。」
キタキツネのチャンタはまた抱きしめられようとしたが、
「お前さんは、いっちょ前のキツネにならたい“夢”があるって“子別れの儀式”で述べたんでは無いのかね?」
はっ!とキタキツネのチャンタは気づいた。
キタキツネの掟として、僕の為に“子別れの儀式”をしてくれたのも、エゾオオカミのカムだった。
エゾオオカミのカムは当然のごとくキツネより力が強かったので、一発で張り飛ばされた。
その時エゾオオカミのカムの
「こんなんじゃいっちょ前のキツネになら無いぞ!」
の激に、キタキツネのチャンタが発した“夢”が「いっちょ前のキツネになりたい」だった。
「でも僕・・・まだ・・・彼女が・・・」
「まあ、大丈夫だよ!そんなに焦るなよ。“自分”を信じていれば彼女も出来て新しい命も授かる。」
「はい!カムさん、ありがとうございます!」
キタキツネのチャンタの目には感激の余り涙が止めどない流れていた。
「そう泣くなよ。照れるじゃないか。」
とエゾオオカミのカムはキタキツネのチャンタの目に溢れる涙をペロッと舐め取った。
「まさかあのキタキツネがオオカミに育てられた過去があったとはな・・・」
森の動物達はキタキツネのチャンタと義理の父であるエゾオオカミのカムのやり取りを感慨深げに見ていた。
「さて・・・」
エゾオオカミのカムは森の動物達を向いた。
「ほーんとにわたくしもゴム風船騒ぎに加わりたかったなあ・・・」
と、脚元の萎んだ黄色いゴム風船を口にくわえた。
そして黄色いゴムを吹き口から優しくゆっくりと、
ふぅ~~~~~っ
ふぅ~~~~~っ
ふぅ~~~~~っ
ふぅ~~~~~っ
と息を吹き込んだ。
エゾオオカミの頬はさほど膨らんでなく、黒光りする鼻の穴が広がるだけで自然な顔で黄色いゴム風船を膨らませた。
黄色い風船はゆっくりとゆっくりと、どんどん大きくなり、キタキツネのチャンタが初めてこの黄色い風船を見た時以上に膨らみ・・・
ぱーん!!
「あっ!」
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