6#森中の動物達が黄色い風船を取りに集まったこと
「お~い!黄色いゴム風船や~い!」
キタキツネのチャンタはヒグマのボマイの洞穴から飛んでった、黄色い風船を空を見つめて探していた。
「お~い!黄色いゴム風船や~い!どこだ~い!」
キタキツネのチャンタは遥か上空を見つめながら広葉樹の森を抜け、ハマナスの草原やとうとうと流れる河を渡り、空を見上げなから黄色い風船が飛んでいる場所を見つけようとしたが・・・
ドスン!
空ばかり見て、前をよくみてなかったキタキツネのチャンタは何かにぶつかった。
細い脚と分厚い胸とふくよかで黒光りする鼻から白い息がふっ!ふっ!と飛び出しているを見た。
エゾシカのシコタだった。
キタキツネのチャンタはエゾシカのシコタの立派な角をよ~く見た。
角にあの黄色い風船が結わえてあった。
「鹿さん、このゴム風船はどこで・・・」
「今さっき木にひっかかってたんだよ~!!どう?いいでしょ?これで雌もイチコロよっ!」
「でもそれ・・・」
キタキツネのチャンタが言おうとしたとたん、
「やだ!」
とチャンタを後ろ脚で蹴り飛ばして、エゾシカのシコタは角の黄色い風船を揺らして、行ってしまった。
軽い脳震とうを起こしたキタキツネのチャンタはフラフラと立ち上がると、
「あっ!しまった!」
エゾシカのシコタの角から結わえていた黄色い風船がするりと取れて、飛んでった。
その黄色い風船は、膨らんでから時間が経ったからか、最初見てから綺麗な艶もなくなり浮力が若干弱まっているのを、キタキツネのチャンタは見た。
チャンタは、性の抜け始めた黄色い風船を今度は木から一匹のエゾリスが紐に取り付いた。
エゾリスのシリーは
「わぁーい風船!風船!」
と黄色い風船の紐を掴んで大はしゃぎだ。
エゾリスのシリーの掴んでいる黄色い風船は、一定の浮力を保ちながらフワフワと広葉樹の森の中を飛んでった。
キタキツネのチャンタはその黄色い風船を慌てて追いかけたら、そこにヒュッと一羽のクマゲラのロフが現れた。
「ああっ!エト~!ゴム風船いいなあ~!」
クマゲラのロフはエゾリスのマイの掴んでいる黄色い風船の周りを「
「いいなあ~!いいなあ~!」
と飛び回り、それを見ていたキタキツネのチャンタはいつクマゲラのロフの鋭い嘴が黄色い風船に接触して破裂するか気が気でなかった。
飛び交っているクマゲラのロフの風圧で、エゾリスのシリーが黄色い風船のたなびく紐を支えきれなくなり、思わず離してしまった。
「わあーっ!」
今度は右からオジロワシのクナシが、左からシマフクロウのエトロが「昼間に飛ぶのは眠たいなあ」と愚痴をこぼしながら、黄色い風船をめがけて飛び交った。
「わあーっ!」
またエゾリスのシリーは2羽の風圧で飛ばされた。
「おっと!」
とそこにやって来たエゾシカのシコタの角にエゾリスのシリーが掴まり、ほっとした。
また出会ったオジロワシのクナシとシマフクロウのエトロはまた、黄色い風船のことで取り合いの大喧嘩していた。今度はクマゲラのロフまで巻き込んで三つ巴の闘いだ。
その下でノウサギのハボがやってきて
「あああ~っ!!ふうせんだああっ!」と目を輝かせてぴょんぴょ~ん!とエゾシカのシコタに飛び登ると、角から黄色い風船を取ろうとしているエゾリスのハボと風船取り合いの大喧嘩を始めてしまった。
更に後ろから、
ドスン!ドスン!
今度はヒグマのボマイが地響きをあげて突進してきた。
「ゴム風船がー気になってー冬眠でーきねぇ~!!」
全員がヒヤッとした。冬眠していないヒグマは怖いと思っていたからだ。
ヒグマのボマイは仁王立ちして、前脚を突き出して、フワフワ一定の高さのまま浮かんでいる黄色い風船を掴もうとした。
あの鋭い爪に風船が当たったら破裂しちゃう!とみんなは気が気でなかった。
更に次から次へとエゾシカやエゾリス、ノウサギ、シマリス、ノビタキ、エゾセンニュウ、ハシブトガラ、クマゲラ、コマドリ、ルリビタキそしてヒグマやキタキツネ等森の動物達がやってきて、
「風船だあ!」
「ゴム風船だあ!」
「ふうせん取りたあ~い!」
と揉みくちゃの大騒ぎになった。
騒動の真っ只中に押しつぶしされそうになりながら、キタキツネのチャンタも夢中になって黄色いゴム風船を取ろうとするも、周囲の威勢に負けそうだ。
「風船!」「風船!」「ふうせん!」「風船!」「ふうせん!」
黄色いゴム風船は、森の動物達にかき回されていくうちに、段々と中のガスが抜けてきた。
そして黄色い風船の浮力もなくなり、森の中の動物達の中で揉みくちゃになり、ガスが更に抜け小さく萎んでいった。
それでも大騒ぎをやめなかった森の動物達。ヒグマのボマイはいつの間にか、黄色いゴム風船が無いことを知り、
「ちょっーとー待ったあー!!ぐおおおおおお!!!」
と森中に響き渡るように吠えた。
争いはピタリと止んだ。
森の動物達は地面の下にすっかり萎みきった黄色い風船がゴムが伸びきった状態で、動物達の足跡だらけになって落ちていた。
「あ~あ・・・!!」
森の動物達は落胆のため息をついた。
「お前が風船を潰した!」
「いや君だ!」
「ゴム風船を台無しにしたのはてめえだ!」「いや、お前だ!」
森の動物達は今度は、萎えた黄色い風船の原因を巡って大喧嘩を始めた。
「お前だ!」
「君だ!」
「てめえだ!」
「ぐおおおおおお!!!けーんーかやめーろー!!しゃらあーーっぷ!!」
ヒグマのボマイは森中に響くように大きく吠えた。
森の動物達は喧嘩をピタリとやめた。
「いいかーい!!ゴムふうーせんというのはー、空気入れてーふくーらんだらー、時間がーだいーぶ経つとー、表面のゴムのー張り詰めた小さーい隙間からー空気がすこーしずつ抜けてー行くんだよー!ほらー!空気が入ってー長時間ゴムがー伸びた状態だったからーこんなにー伸びきってるーでしょー!!」
ヒグマのボマイは萎みきった黄色い風船をかざして、森の動物達に見せた。
「じゃあーおーれーが~このーゴムふうーせんにー空気をー入れるね~!!」
ヒグマのボマイは萎みきった黄色い風船の吹き口を爪で解き、息を思い切り深ーく吸い込んで、ボマイの鋭い牙の大きい口をガバッと開き、黄色い風船の吹き口に息を思い切り渾身の力を込めて吹きこもう・・・とした瞬間、
バーッ!
何かがヒグマのボマイの持っていた萎えた黄色いゴム風船を奪って、つむじ風のように去っていった。
ヒグマのボマイは息を吹き込もうとした爪元のゴム風船がに突然消え去り、頬をぷうっと膨らんだ状態で呆然とした。
「なんなんだ?」
萎んだ黄色い風船を奪い、もの凄いスピードで通り過ぎた者を森の動物達は全員で追跡した。
「あれは・・・まさか?!」
キタキツネのチャンタは予感した。
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