5#ヒグマのボマイの夢のこと

 黄色い風船を広葉樹の中で見失ったキタキツネのチャンタは、空気の中に風船のゴムの匂いが漂っている筈だと、チャンタは鼻を突き出してクンクンと匂いを嗅いだ。


 クンクン、クンクン、クンクン、匂いがしない。クンクン、クンクン、クンクン、まだしない。クンクン、クンクン、クンクン・・・あっ!イテッ!


 「何よそ見してんたよおめぇ!」


 キタキツネのチャンタが脚を引っかけたのは、ノウサギのハボだった。


 ハボはキタキツネのチャンタを見て、強気な態度を一変して、


 「嫌あああ!キツネに喰われる~!」


 と猛ダッシュですたこら逃げていった。

 「あ~あ、今日は別にウサギなんか食べる訳でも無いのになあ・・・」


 キタキツネのチャンタは、ノウサギのハボに黄色い風船を知らないか聞きたかっただけだったので、がっかりした。


 キタキツネのチャンタは風船探しを再開した。


 鼻をクンクン、クンクン、クンクン、クンクン・・・


 「ん?」


 チャンタは森の開かれた場所の窪地に穴を発見した。風船の匂いはしないが、好奇心でちょっと入ったみた。


 「お邪魔しま~す!」キタキツネのチャンタは穴に入った。


 中から音がする。




 ぐおおおおお!!


 ぐおおおおお!!


 


 キタキツネのチャンタは恐る恐る入っていった。



 ぐおおおおお!!


 ぐおおおおお!!




 地鳴りのような不気味な音が聞こえる。


 突然、キタキツネのチャンタに何かが触れた。


 「あっ!ゴム風船だ!」


 キタキツネのチャンタは風船を見つけた。が、風船にしてはゴムの匂いがしない。どころか、その風船はどんどん膨らんでいく。


 どんどんどんどん膨らんでは、ぷしゅ~~っと萎んだ。


 そしてまたどんどんどんどん膨らんでいって、またぷしゅ~っと萎んだ。


 またその風船がどんどんどんどん膨らんで、今後はキタキツネのチャンタを押し返すような大きさにどんどんどんどん膨らんだ。


 「くっ・・・苦しい・・・!」


 そして、チャンタが洞穴の外に押されそうにまで膨らんだ瞬間・・・




 ばあああああん!!!!




 洞穴を轟かせて、その風船はどでかい音を出して破裂した。


 キタキツネのチャンタはビックリ仰天してのけぞった。


  更に割れた風船の中から臭い獣の匂いが立ち込めた。


 「ん・・・ん~~~!!」


 洞窟の中で2つの目が光った。


 「ひいっ!」


 中にいたのは巨大なヒグマだった。


 ヒグマはノッシノッシとキタキツネのチャンタの前に迫ってきた。


 キタキツネのチャンタは食べられる!!

と恐怖で腰が抜けた。


 冬眠中を起こしてしまったので、機嫌が悪いに違い無いと思った。


 「べーつーにー怖がらなくてもいーよー!」


 ヒグマは野太い声で言い、キタキツネのチャンタの顔の前にヒグマは顔を近づけた。チャンタの顔にもろにヒグマの生暖かい鼻息がかかるとゾッとした。


 「あ・・・あの・・・僕は・・・キタキツネの・・・チャンタっていいます!」


 「チャンタ・・・いい名前だねえ~!おーれの名はボマイって言うんだー!よーろしくねー!」


 ヒグマのボマイはぶっきらぼうに自己紹介をした。


 「あの~こんなこと言って失礼・・・かな・・・あなたの鼻提灯大きい・・・ですねえ・・・。」


 「あっ・・・そうかいーそう誉めてくれるのは君がー初めてだよー!いやあ嬉しいねえー!おーれーのー自慢のー鼻提灯なんだーぶわっはっはっは!!」


 ヒグマのボマイは豪快に高笑いした。


 「おーれーはとーってもでかぁーい鼻提灯を膨らますことにーぃ日夜努力してるんだよぉーぶわっはっはっは!!」


 ヒグマのボマイが高笑いする度にボマイの肺活量がとてつもなく凄いからか、キタキツネのチャンタは数メートルぶっ飛んでしまった。


 「おーれーはこの冬眠中にとぉぉっってぇもでーっかいゴム風船を思いっっきりぷう~~~~~っと膨らます夢を見るんだ。一度でもいーいからーでっかぁーいいゴム風船を膨らませてみたいなあーー!!」


 ヒグマのボマイは鼻の穴をパンパンにしてボマイの夢を語った。


 キタキツネのチャンタはヒグマのボマイのように“夢”って持ってたっけ?と、突然考え込んだ。


 ・・・向こうの大地では結局恋人が出来ずに、一年“あぶれ”て一匹キツネ状態だったしな・・・今年こそ恋人作って子供に恵まれたいなあ・・・そういえば今頃恋人探ししなきゃいけない時期だからなあ・・・!


 「それーに、おーれーはこの冬眠中に深呼吸したらおーれーの中にい~っぱい空気を詰め込んでーたら宙にうーいーてー空~をー飛んだ夢を見たんだ~。」


  ヒグマが空を飛んだら、オジロワシのクナシもシマフクロウのエトロも仰天するだろうなあと、キタキツネのチャンタはニヤリとした。


 「口をひらーいたら、ぷしゅ~っっと口から空気が抜けて、空をふーっとんだら~頭をーぶつけ・・・あれ?こーんなところにー!」


 ヒグマは洞穴の入り口の天井ににあの黄色い風船が揺れているのを発見した。


 「あ~~~っ!!これは黄色い綺麗なゴム風船だあ~~!!」


 ヒグマのボマイは一目散にノッシノッシと天井のゴム風船に駆け寄った。


 キタキツネのチャンタはその振動でボマイに出遅れた。


 「ふうせーん!ふうせーん!おーれーのゴムふうせーん!」


 ヒグマのボマイは大きい前脚で天井の黄色い風船を取ろうとした。


 仰向けになったままのキタキツネのチャンタはヒグマのボマイの鋭い爪が黄色いゴム風船に触れて破裂しないか心配てまドキドキした。


 やっと起き上がれたチャンタは、ボマイから風船を取ろうと背伸びしたとたん、




 「はっ・・・はっくしょぉぉん!!!!」




 ヒグマのボマイは豪快にくしゃみをした。その飛びだした吐息が黄色い風船を外に追い出した。


 「あ~あ・・・また飛んじゃった・・・」


 キタキツネのチャンタはまたしても黄色い風船を取れるチャンスを逃してしまった。


 「ふぁ~~~っ!またひと眠りするかな・・・」


 ヒグマのボマイは再び冬眠についた。

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