2#ゼニガタアザラシのエーダと会ったこと

 「黄色いゴム風船待ってぇ~~~!!」


 キタキツネのチャンタは、飛んでいく黄色い風船をひたすら追いかけていた。


 と、突然チャンタの走っている流氷の下から


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 ガバッ!


 「わあ~~!!」


 チャンタの目の前で流氷から顔を出してきたのは、一頭のゼニガタアザラシだった。


 前をみていなかったチャンタは、ゼニガタアザラシに気づかず、つまづいてスッテ~~ン!!と転び、何メートルか滑った。


 「痛ってぇ~~!!何だよ!!」


 転んだ痛みでヨタヨタと戻ってきたキタキツネのチャンタは、原因のゼニガタアザラシを見て、


 「あっ!」


 「ああっ!」


 「よお!久しぶりじゃねーか!!遠い島の生活どうだった?」


 「久しぶりだねえエーダ君!僕は恋人出来なくてさあ~!!ひとりであぶれてた。」


 ゼニガタアザラシのエーダは生まれ故郷の北の海で子ギツネ時代によく遊んで貰ったアザラシだ。


 エーダは鼻の穴をフーフーとパンパンに広げては閉じて、久しぶりの友との再開を喜んだ。


 「あっ!」


 「どうしたの?」


 「僕、黄色いゴム風船を追いかけてたっけ?」キタキツネのチャンタは言った。


 すると、ゼニガタアザラシのエーダは氷から出て、息を思い切り吸い込み鼻の穴を閉じて、体と頬を息で膨らませて“風船”になりきってみせた。


 突然、ゼニガタアザラシのエーダは急に息が苦しくなって顔が赤らめて、膨らんだ頬が更にパンパンになり、口を開くとぶわっと大量の息が吹き出し、反動で数十センチ滑った。


 「ふうふう・・・体が萎んで白い子アザラシに戻るかと思ったよ。あれ?どこ行った?チャンタ~どこ~?」



 

 キタキツネのチャンタはゼニガタアザラシが風船の真似をしてる隙に、見失った黄色い風船を大空を見上げながら探した。


 「お~い、ゴム風船や~い!どこ飛んでったんだ~いっ!」


 チャンタは鼻で周囲の匂いを嗅いだ。風船のゴムの匂いを確かめたかったからだ。だが黄色い風船は遥か上空。ゴムの匂いなんかする訳ない。


 「ばあ~~~っ!!」


 「また何か用なの?!」


 風船の真似の隙に逃げたキタキツネのチャンタに、ぷうっと膨れたゼニガタアザラシのエーダがまた真ん前で立ちふさがった。


  「んもう・・・せっかくの再会なのに、逃げるなんてあんまりじゃね?という訳ではい!風船!」

 とゼニガタアザラシのエーダは頬をパンパンに膨らませてみせた。

 「じゃなくて、本当のゴム風船を・・・」

 「風船ならあるじゃん!君の上空に!」「えっ?」

 キタキツネのチャンタは上空を見上げた。

 「上空にいるのはオジロワシじゃん」

 「だーかーらー、よぉーく脚元を見なよ!」

 「ああっ!」

 キタキツネのチャンタはビックリした。

 オジロワシの脚の爪はがっしりと黄色い風船の紐を掴んでいた。

 キタキツネのチャンタは青ざめた。オジロワシはキタキツネの“天敵”だ。

 「なあ、言っただろ?じゃあまたな!取りに行くのも行かないのも君次第だよ!」

 ゼニガタアザラシのエーダは息継ぎをすると、流氷に潜っていった。

 「さあどうしよう・・・!追いかけると襲われそうだし、黄色いゴム風船欲しいし・・・。ええいっ行っちゃえ!」

 キタキツネのチャンタ達の上空を旋回していたオジロワシは、その後チャンタの向かう大きな大地に向けて、怏々しい翼をはためかせて行った。

 キタキツネのチャンタは決死の思いでそのオジロワシの掴んだ黄色いゴム風船を追いかけていった。

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