招集 9
「まず、この国の歴史は知っているわね?建国神話を。」
建国神話。
これは、この国にいる民にとって、愛国心の塊を育てるための神話だ。
「けれど、それは決して単なる寓話ではない。」
背の高い少女が、己の手元を見つめながら言う。
そう。建国神話は作り話ではない。
「過去にあった真実を、美しい事実に作り替えている。」
「そのとおりよ。」
笑顔でレコは答え、優秀な後輩たちに話を続ける。
「建国神話では、勇者がアニティカに乗り込み、魔族を倒しました。しかしその後、城にくすぶっていた魔力が復活し、『魔女』が現れたと記述されていますね。」
「でも、私たちはその『魔女』に、成りに来たのでしょう?」
まっすぐな背筋を微塵も動かさず、例の少女が突っかかる。
「ずいぶん急かすのね。そのとおりよ。」
この場にいるのであれば、だれもが知っていることだ。皺を寄せるのをこらえたような眉間と強い口調をニリスは不思議に思ったが、背の低い少女による発言がその思考を遮った。
「そうよ!私たちは選ばれた存在なの。この国を強くするために、私たちの力が必要だということでしょう?だったら、さっさと勇者を倒してしまいましょ!」
「ちょっと落ち着いてよ~。そりゃあ勇者を倒せたら万々歳だけど、圧倒的に倒しちゃったら再戦もできなくなるでしょ~?えっと・・・」
ふわっとした印象の少女の言葉が止まる。
「それぞれの思いはあれど、みんながここの存在意義を理解しているようでよかったわ。話の途中だったのだけれど、自己紹介をしましょうか。こんなに早く皆さん同士の会話になると思っていなかったの。ごめんなさいね。」
建国神話とアニティカの話をいったん切り、自己紹介を行う流れとなった。
「じゃあ最初はあたしからいくわ!ゲリー・オリゾニス、地殻系の魔女よ。力業だったら誰にも負けないわ。もちろん、地に立つ人間ごと飛ばすことだって難なくね。」
右手を握りしめてゲリーは笑う。ほほえみではなく、いかにも自信ありげな笑みだ。
「よろしくね、ゲリーちゃん!わたしはディーア・クノス。魔法の系統は水で、ううん…このお城の中でどんなことができるかは…これから試さないと分からないって感じです。」
桃色の髪の少女がにっこりと笑う。人当たりのよさそうな彼女の雰囲気には、水を操る者特有の存在感がある、とニリスは感じた。
「あなたからどうぞ。」
正面の少女にそう言われ、ニリスは慌てたが、断ることもできずその場に立ち上がる。
「あの…ニリス・ガラヌスです。風の魔法が専門で、えと、ずっと、今日皆さんに会うのが楽しみでした。」
ゲリーがふき出して笑う。
「あんたって真面目なのね。その場に立ってまできちんと挨拶しちゃって。」
「あ…」
そういえば、二人とも座ったまま挨拶をしていた。途端に恥ずかしくなって、すぐに椅子に座る。次に挨拶するはずの、正面の少女に視線を戻すこともできずに俯いていると、その少女は立ち上がった。
「フィト・スフォリィです。主軸魔法は生物、特に植物系です。その他に、精霊系の魔法も勉強しています。よろしく。」
この場の全員に視線を回し、静かに着席する。
「では、話を続けましょうか。十三代目の魔女の皆さん。」
彼女たちの時代が、幕を開ける。
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