招集 7
ニリスが目を覚ましたのは、ベッドの上だった。
見慣れた服に筆記用具、いつも使っていたはずの寝具。なんだか今日は、とても新鮮に感じる景色である。机の上にメモがのっている。
『朝食、食堂で』
朝食なのだから食堂でとるのは当たり前…と考えて、ニリスは思い出した。
「顔合わせの日だ!」
なるほど、今日を新鮮に感じて当然だ。
待ちに待った顔合わせ。これから共に過ごす仲間との、初めての食事の日なのだ。
幸い朝寝坊というほどの時間は過ぎておらず、きちんと準備を整えることができる。
「制服を着るんだ。」
まだ新しく、少し硬い制服。
一週間前に支給されたものの、サイズがきちんとあっているかだけ確かめて壁にかけていたため、気持ちとしては初めて着るようなものである。
詰襟から肩、袖は白の綿で出来ており、肌触りが良い。胸部からスカートにかけて紺に染められており、バイカラーのワンピースになっている。腰の部分には革製のベルト。本革だから、使っているうちにニリスの体になじむだろう。このベルトをひと月、ふた月、半年、一年…考えただけでもわくわくする。同時に、立派にやっていけるか不安にもなるが。袖のボタンを留め、黒のハイソックスを履いて靴を見る。これまた本革のブーツで、先ほど履いた靴下と同じくひざ下まである。指3本ほどかかとが高く、前面に少し切込みが入っていて留め具はない。着脱が簡単にできる形だ。じっくり見れば見るほど、彼女好みのデザインだった。何よりもこの紺が良い。深い深い藍。暗闇に紛れてしまいそうな色。
「私の髪とは正反対。」
鏡を見てそうつぶやく。
そこには、絹のように滑らかな白い髪があった。
どんなにわずかでも、この髪は光をとらえて反射する。柔らかくてお気に入りの、私の髪。
「ちょっと…似合わないかも」
顔の正面、真ん中で分けておろした髪を見ながら彼女はため息をついた。
シックな色の制服に、なんて似合わない髪なんだろう。もっと誰にでも似合うデザインにしてくれたらよかったのに…と、先ほどまで高まっていた制服への思いがひっくり返る。いや、これは自分が悪いのだ。自分のこの髪が、この素敵な制服の魅力を妨げているのだ、と今度は大好きな髪をいじり始めた。
制服を変えることができないのなら、髪を変えればよいのだ。
そうだ。白い襟元に白い髪がかかっているからいけないのだ。ニリスそのものとこの制服の境界をあいまいにしてしまっている。
「よし。正解!」
前髪を顔の中心で分けたのはそのままに、耳より後ろの髪を背中へ向けて一本の三つ編みにした。慣れていないので根元が少しふんわりとしてしまったが、これはこれで良し。
重心が変わって心地が悪いが、すぐに慣れるだろう。
時計を見て、普段から早起きの自分に感謝した。これだけ身支度に時間をかけても、朝食の時間には間に合う。
顔合わせ。これから苦楽を共にする仲間との、初めての食事。
まだ時間がある。そうだ。仕事についてもう一度復習しておこう。
この国で、最も大切な仕事。
歴史と多くの犠牲の上に成り立ち、この国を支え続けてきた仕事。
仕事。国に仕える事。私に課せられた義務。
そろそろ時間だ。
速まり高くなる鼓動とまだ固い制服、重心がずれた頭に緊張しながら、少女は部屋の扉を開いた。
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