招集 4

エナとラフィアは、初等教育の学校から一緒に学んできた学友同士であった。同じ風使いということもあり、ずっと仲もよかった。しっかりしてはいるが話すことが苦手なエナと気さくでいつでも笑顔でいるラフィアは、性別など関係なく本当に仲が良く“きょうだい”のようだと、決して周囲からの評判も悪くはなかった。この年頃になると恋人のようだと揶揄われたりもするのだろうが、二人に限ってそんな噂は立たなかった。

「エナ、おめでとう!就職決まったんだって?」

満面の笑みにうん、と頷くと、何になったのか問われた。エナは一瞬、誤魔化そうかとも思ったが、何の職に就いたか自体は言っても差し支え無いはずだ。ラフィアの顔から視線をそらして、息を吸う。

「国王に、仕えることになったよ。」

幼馴染と呼ぶべき相手に簡単に言えるセリフではなかった。それでもよく知った仲だ。ほかの人に聞かれていたら、こんなふうに口に出すことはできなかっただろう。

「そっか!すごいなあ、夏とか国王の扇風機代わりにでもなるのかなぁ。」

「そんなわけないでしょ…」

ぷっと吹き出してしまう。だよなあ、などと言いながらラフィアも笑っている。

そうして二人でしばらく笑った後

「俺はな、もう一つ上の学院に進学できることになったんだ。母さんも応援してくれるっていうし、これからはしばらく家で暮らすことにする。」

「そっか…じゃあいつか魔物と戦うの?」

上の学院ということは、騎士院で習った実践戦闘に磨きをかけ、国の戦力になるための育成機関『精鋭舎』への進学が決まったということだ。そこは、国のはずれにある魔城アニティカから国を、民を守るための人材を育てる場所だ。

「そうだな、そしていつか、エナのご両親の仇も…」

笑っていた顔の目元を決意ある形にし、ラフィアがエナの方を見る。私だってそこに行きたい、エナはそう言いたかった。勉強も魔法も体術も人一倍頑張ってきたのは、いつかアニティカまで辿り着き、魔物の術が原因で死んでしまった両親の敵を討ちたいという思いもあったからだ。しかし、不運なことに彼女は優秀すぎた。

「そんな顔すんなよ、せっかく安全な職につけたんだろ。エナがずっと城に居てくれればご両親だって気を揉まなくて済むだろうしな。」

ずっと城に居る。

「…やっぱり、ラフィアも城の外に出られないと思う?」

ん、と聞き返した彼にもう一度問う。

「私、もうみんなに…ラフィアに会えないのかな。」

何度も考えた、ただの噂だ、何にも怖いことなんてない。けれど、一度こうして話をしてしまうとやはり怖くなる。もうこんな会話もできなくなる。きっと毎日の鍛錬も競うようにして食べた食事もこんな風に気持ちのいい晴れの日もすべてが、あっという間に過去になってしまう。あとからこんな話がしたかったなんて思っても、間違いなく手遅れだ。

「しょうがないんじゃないか。」

はじかれたように顔を上げて彼を見た。本人もつい出てしまった言葉で、空を見ていた視線をエナに向けて、その表情を見て、焦る。

「いや、なんかさ、この国って結構平和じゃないか?だから、ちょっとくらいのシリアスは俺たちが背負っても、その分の幸せが、誰かの幸せになったらいいなーなんて、思って、みたりして、な?」

慌てて取り繕う。この優しさにエナは支えられてきた。でもそれもきっともうすぐ終わる。本当にラフィアは優しい。彼女は今、他人の幸せなんて願えない。もっとこうして笑っていたい、どうしてもそう思ってしまう。

「なんか、エナが国王に仕えるのが不幸みたいな言い方になっちゃったけど、そういう訳じゃないから!いやほんと、おめでたいって!」

「わかったわかった。大丈夫だから落ち着いて。」

こんな二人を見て、周囲はきょうだいのようだという。エナが、ラフィアが。自分自身の気持ちにも、お互いの気持ちにも気づいていないからだ。ずっと一緒だった毎日。だから気づかない。お互いがいなくなった世界がどんなものか。

だから二人は

「じゃあな、頑張れよ。エナ。」

「そっちこそ頑張ってよね。ラフィア。」

固く握手をして、互いの風を吹かせたのだった。

それは旋風を起こして春の花びらを空へ巻き上げた。

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