招集 1
卒業式のあと、エナは院長室へ向かっていた。彼女はこの学院、騎士院で最も優秀な女生徒として過ごし、卒業した。
この国には4つの学院があり、毎年各学院で最も優秀な女生徒を集め、内弟子として特定の職に就かせる。弱体化した仕事に優秀な人材を送る為だ。また、人手が足りないという証拠にもなり、失業者が過疎化した職に就こうとするためでもある。こうしてこの国は凡ゆる仕事の存続を守ってきたのだ。
しかし十数年に一度、国王に仕える世代が現れる。国王に仕えて…何をしているのかは分からない。国の城に仕えていること以外、情報が一切遮断されているのだ。最低限、城の外には出ないということだろう。自由がなくなる代わりに生活が保証される…国民はそれだけを理解している。何の仕事をしているのか、事務か、メイドか、それとももっと俗なものかは分からないが、それでも民はそれをうらやんでいるのだった。
とにかく、今年の騎士院代表生徒はエナである。学院長に対しても、恥ずかしい態度はとることができない、と院長室の扉の前に立った彼女は姿勢を正す。しかし、自分はこの扉を開いて良いほど優秀だろうか…と考える。
全く継ぎ目のない一枚の扉。つまりたった一本の木から削り出しだけで作られたということだ。この国にはそれほどに豊かな自然とそこから供給される魔力に溢れている。自然と共生する。無理に操るのではなく共に生きていく。そんな魔法が発達している都市として外交もさかんである。エナが得意とする魔法もそういった自然由来のものであった。
扉の真ん中に付いた銀の校章。鎧を見に纏った男女が背中合わせで立ち、何処か遠くを見据えている。立国神話の勇者たちである。立国神話はただの作り話ではない。実際にあった出来事に王が脚色を加え、国民の愛国心を育てるために分かり易くしたものだ。エナも彼らに憧れてここまでやってこれた。平和を脅かす敵からこの国を守りたい、そう思って今、ここにいる。
ただ、彼女は少しだけ、自分に自信を持ちにくい性格であり、この扉をくぐる資格が自分にあるかどうか問いすぎるあまりに相当な時間が経過していることをここで伝えておこう。
エナは風と共に生き、少々心配性で臆病な、愛国心溢れる齢16の少女であった。
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