四十五之剣 「憧れ」
「お前は、わがままだな。ソラ。みんな、救いたいだと。だが、現実はそんなに簡単には行かない。現実を見ろ。大人になれ。俺たちは、ただひたむきに剣を振っていた頃の俺たちではないんだ。何かを守るためには、何かを犠牲にする。取捨選択することが必要なんだよ」
テラは、淡々と、冷静な声で語る。
「簡単に、行くなんて思ってない。もしかしたら、無理なことかもしれない。変えられない現実かもしれない。でも、それでも、あがいていたんだ。みんなで、最後に、笑っていたいから。苦しい道であったとしても、俺は抗い続ける」
ソラは、光の剣を構え、負けずとテラに向かって言います。
「幻想だ、そんなもの。幻想を追いかけた末、それが、全くの幻想で叶いようもない現実だったと知って、自分を傷つけるだけだ。俺が、現実を教えてやる」
テラは、聖剣を片手に、ソラを襲う。凄まじい速攻です。なんとか、ソラは、防いでいる。ですが、防ぐ一方で、やはり攻撃を加えようとはしません。このまま、防戦一方で終わってしまうのか。
「やめろ。俺は、お前と」
テラとの戦いを頑なに拒むソラ。そんなソラに手を抜くことなく、テラは、剣を振り続けている。
「うるさい。その言葉は聞き飽きた。俺と真剣に戦え、ソラ」
テラは、一向に自分と戦おうとしないソラに苛立ちがさらに増しています。その分、テラの剣を握る手に力が入る。
「嫌だ。俺は、親友を傷つけるために、剣を振りたくはない」
頑なだ。ソラ。何が何でも、剣で攻撃はしないつもりのようです。これじゃあ、テラには勝てない。どうなるんだ。この攻防の果てに一体、何が。
「それが甘いというんだ。自分のプライドを捨てられぬが故に、身を滅ぼし、大切な者も守れない」
テラは、そう言うと、ソラの後ろに回り込み、首元を掴むと、強く握りしめる。そして、闇の魔力を放ちながら、ソラの顔面を地面に叩きつけます。地面を見ると、亀裂が入っています。痛そうだ。いや、普通なら、これで気づいたら天国ということがあっても不思議ではありません。
「ぐはっ!?」
なんとか、身に纏う光の魔力を瞬間的に厚くすることで衝撃をやわらげたようです。そうは言っても、かなりの深手をおっている。思い返してみれば、テラの強烈な攻撃をまともに二回食らっているソラ。動くこともままならない状況か。
「これで、最後だ。ソラ。かつての親友として、一瞬で終わらせてやるよ」
テラは、聖剣を高く振り上げると、ソラに向けて振り下ろします。と、突如、どこからか、声が聞こえ、テラの剣先が止まります。
「やめて。ソラを殺さないで!!」
カエナです。ソラが剣で襲われるところを見て、思わず叫びます。その叫び声を聞き、テラは、邪魔が入ったとばかりにエトランゼの名前を叫ぶ。
「エトランゼ!!」
エトランゼは、すぐさま、炎を操り、カエナの目の前に赤く燃え盛る厚い炎の壁を作ります。
「おっと、邪魔したらダメだよ。せっかく、面白いところなのに」
「あ、熱い」
エトランゼがカエナに向かって忠告するが、カエナは、壁から押し寄せる強烈な熱気でそれどころではない。
「近づかない方がいいよ。その炎の壁に触れれば、火傷じゃすまないと思うから」
確かに、エトランゼの言うように火傷だけで済みそうにありません。
勢いつけて、壁を抜ければ、大丈夫。なんてレベルではない。骨だけになって出てくると思います。
「ということだ。無駄な行動はしないほうがいい」
テラは、カエナのほうを見ることなく、口元を動かし言った。
「負けないで......」
震えた、小さな声。
「誰だ。この声は」
カエナとは違う子供の声に、テラは、周りを見渡す。
「負けないで!!剣士さん。負けちゃダメだ!!」
男の子が、泣きそうな顔で、体を震わせながら、立っています。
その様子を見て、ソラは、自ずと、手に力が入り、地面の砂を握りしめます。
子供がまだ幼いのに、恐怖で体が震え上がってるのに、勇気を振り絞って俺を応援してくれた。こりゃあ、カッコ悪いとこを見せられねーよな。
「うおおおおお!!!」
テラに首元を押さえつけられながらも、ソラは立ち上がろうと、もがきます。
「ムダだ。ソラ。お前が力を入れようと立ち上がろうとしても魔力のコントロールすらろくにできないお前では立ち上がることすらできない」
「無駄かもしれない。でも、あきらめてしまったら、そこで終わりだから、諦める訳にはいかないんだ」
地面に押さえつけられていたソラですが、徐々に、地面から、立ち上がっていきます。テラは、ソラの沸き上がる魔力を、手のひらで感じ、思わず声を出して驚きます。
「なんだ。押し戻される。まさか、そんな、この短時間で魔力のコントロールを。何が、一体、何が、お前をそこまで突き動かすって言うんだ!!」
ソラの高まる光の魔力に、弾かれ、ついにタナは、手を放し距離を取ります。
「ずっと憧れていた。タナ、お前に。決して、人前ではくじけそうになっても自分の弱いところを見せなかった。剣士として誰かを見捨てたりしなかった。だから、俺は自分の限界を越えてでも、そんなカッコいい剣士でありたいと思ったんだ」
ソラ、お前という奴は、ほんとにバカで、一途だ。だが、それでいい。自分の信念のために戦え。
テラは、戦いの中で成長するソラを内心、喜んでいます。かつてのソラの師として、弟子の成長を垣間見るのは、嬉しいのでしょうか。
ですが、テラは、相変わらず、戦いの姿勢を崩さず、剣を構えている。
「面白い。なら、見せてみろよ。お前が言うカッコいい剣士って奴を」
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