四十二之剣 「憤怒」
ソラは、テラの言った言葉を理解できなかった。いや、理解するための材料が少な過ぎるといった方が正しいのかもしれません。ソラの眠っていた五年間に、二人の友情にとてつもない亀裂が生じてしまったようです。そんなことがあり得るのか。ソラが眠っている間、テラに何があったのでしょうか。テラの口から語られることを期待したいところですが。
「何、言ってるんだよ。俺たち、親友だろ?」
二人の間になんとも言えない静寂と緊張が漂います。長い、長すぎる。たった、一秒がとても長く感じられます。なんだか気まずい雰囲気が続いていますが、ここでようやくテラが語り始める。
「ソラ、お前は確かに親友だった。表面上はな」
動揺するソラ。親友と思っていたテラに、実は友達じゃなかった的なことを言われるのは、かなり心の傷穴をこじ開けられます。
「表面上は......。なんだよ、それ。まるで、本当の親友じゃなかったみたいじゃないか!!」
「そうだ。お前が勝手にそう思い込んでいただけだ」
「嘘だ!!魔王がイマリ村を襲った時だって、一緒に戦ってくれたじゃないか」
「表面上はな」
「さっきからなんだよ、表面上はなって!!ちゃんと答えてくれよ!!」
表面上を多用し、なかなか核心に触れないテラに苛立ちを覚えるソラ。
「なら、教えてやるよ。俺は、魔王のことを愛している」
「はっ!?」
予想だにしないテラの答えに、ソラはびっくり仰天、思わず声が出る。テラが何を言っているのか、全く頭が追い付いていません。あまりに衝撃的な事実です。すぐに理解できないのも無理はない。
「待て、待て、何をいきなり言ってるんだ。訳が分かられねーよ!!どうして、いきなり魔王を愛してるになるんだ」
「俺は、ずっと昔に魔王に助けられたんだよ。俺とお前が、出会う前の話だ。おかげで人間たちによる支配から抜け出すことができた」
「人間たちの支配だって。どういうことだ。俺と出会う前に、テラに何があったんだよ?」
テラは、かつての経験した、つらい記憶を思い出し、強く拳を握りしめながら答え始めます。なかなか、拳をこうやって握りしめながら語るなんてことできはしません。これだけでも、テラのもつ辛き過去がとてつもなく重たいものであることを感じとることができます。
「俺は、かつて、人間たちの奴隷だった。いいように扱われたよ、そりゃあ、もう。つらかった。それに、親もいない。友達もいない。 周りにいるのは、俺を道具としか見ない奴らばかり。自分がなぜ生きているのか、どうして自分だけがこんな目に会わないといけないのか。常に、そんなことが頭に過った」
「......」
胃が痛くなりそうな、重たいテラの事実をソラは、黙って聞いています。ここは、最後まで話を聞くべきだと思ったのでしょう。
「そんな時に出会ったのが、 魔王だった。彼女は、俺を永遠とも思える長い地獄の連鎖から救ってくれた。その時、初めて、知ったんだ。誰かに包まれる温もりを。誰かを愛するということを。だから......だから、俺は、魔王の為なら、お前との関係を断ち切ることも厭わない」
テラの瞳には、強い信念のようなものを感じます。ソラも、テラの覚悟のような感じとったのか、真剣な表情をして言った。
「でも、魔王って、魔族だろ?それでも、大丈夫なのか?」
意外と、ソラは、テラの心配をしている。まさかの、恋愛相談の始まりか。
「魔族だろうが、人間じゃなかろうがそんなことは問題はない。俺は、魔王のことを愛している」
「そうか。いいんじゃねーのか、それで。でもな、俺は、イマリ村で魔王がやったことを忘れちゃいない。そして、イマリ村が今、どうなっているのかもタナたちから聞いたよ。俺は、 到底、魔王を許すことができない」
ソラは、魔王のことを憎んでいた。自分の故郷である村をめちゃくちゃにされ、大切な人たちを傷つけられた。テラの大切な人であっても、魔王に対する敵対心を抑えつけることはできません。
「やはり、そうか。俺たちは、分かり合うことはできないようだな。衝突する運命にあるらしい」
「俺は、お前とは戦いたくない。俺は、今も、お前のことを友達だと思ってる」
「甘いな、相変わらず、ソラは。昔からそうだった。その甘さが命とりになると、言っていたのに」
「魔王は許せない。でも、お前は......」
ソラが言い終わる前に、いい感じに、ソラが言おうとしていたことをテラは、言う。
「でも、お前は悪くない。とでも言うのか」
「......」
ソラは、どうやら、テラに言いたいことを言い当てられたようで、黙り込みます。
「ソラ。お前に教えておこう。魔王に、あの村を襲わせたのは、この俺だ」
黙っていたソラですが、さすがにこのテラの挑発的な発言に、怒りの気持ちがどろどろと沸き上がります。そして、ものすごいけんまくで、テラに向かって叫んだ。
「テラ!!お前!!」
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