三十八之剣 「叫び」

 これで、私も終わりか...。


 タナは、エトランゼに油をぶっかけられ、なんとか、炎による爆発を回避したいところ。ですが、タナは、回避するための体力は残されてはいません。このあまりに危機的な状況にタナは目を閉じ、内心で自分の終わりを予感します。


「何、大丈夫。一瞬さ。一瞬で終わるよ」


 エトランゼは、魔力を使い、炎を生み出そうとする。炎がタナに触れた瞬間、それは爆発にかわり、すべてを粉々に粉砕してしまいます。


「や、やめろよ!!」


 小さく震えた声が、どこから聞こえてきます。一体、誰だとエトランゼは、タナへの攻撃をやめ、声の主に視線を移す。タナも、閉じた瞼を開き、声のした方を見ます。


「君か。そんなに体が震えて、僕のこと、怖い?」


 エトランゼを止めたのは、なんと、タナが必死に守ろうとしていた男の子だ。恐怖で、顔が硬直し、足は震えているのが見てとれます。勇気を振り絞り逃げるのではなく、タナを救うことを考えたようです。


「怖いさ。こ、怖くて震えてる。でも、目の前で僕を助けてくれた人が殺されようとしているところを見てみぬふりなんてできない」


「ええ、面白いね。君。みてみぬふりはできないか。でも、僕をどう止めるつもりなの?」


 タナは、男の子に向かって必死の形相で叫びます。


「だめだ。私のことはいい。早く逃げろ!!」


 ですが、男の子は、逃げる素振りはありません。立ったまま、ただひたすらに恐怖と戦っている。そして、男の子はおもいっきり、拳を握りしめ、エトランゼに向かって言います。


「きっと、助けに来てくれる......」


「何を言ってるんだ」


「 魔族から村を救ってくれたように。僕たちを救ってくれる。ソラが!!」


 ソラ。その名前を聞いて、エトランゼは、興奮したように笑い出した。


「ふっ、ふはははは!!ソラ。ソラ。それは素晴らしい!!だけど.....そんな奇跡は、起こり得ない。君は、誰にも救われず、自らの正義感に裏切られ、救われない現実を思いしる」


 タナは、地面に横たわり、抵抗する力さえ危機的な状況下にあるにもかかわらず、口を緩ませ、微笑んでいます。一体、どうしたというのでしょう。

 エトランゼは、タナの微笑みに苛立ちを覚えたのか、強い口調で言った。


「何を微笑んでいるんだ!!あまりに、追い詰められて、頭でも狂ったのか」


「お前は、ソラという男を分かってない。人々が困っているところにやってくる、まるで物語の主人公のような奴があいつなんだ」


「ばかげてる。そんな夢物語が現実に起こる訳がないじゃないか......」


 その直後、村の上方から激しい音が響き渡ります。何事かと、タナたちは音の轟いた方を振り向く。


 ソラ。やっぱり、お前はそういう奴だ。


 タナたちの視線の先には、村の上方に、空いた大きな穴から、妖精に運ばれて下りてくるソラの姿が。ソラ以外にも、カエナも一緒に下りてきています。

 ソラは、爆発で変わり果てた村の光景を目の当たりにして、腹の底から声を出し、沸き上がる気持ちを吐き出す。


「みんな、俺が村を助けに来たぞ!!村がめちゃくちゃにした奴、どこだ!!今すぐ、出てこい!!」

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