三十六之剣 「選択」

 タナに、剣先を突きつけられ、身動きが取れないはずのエトランゼ。ですが、全く動揺は見せず、むしろ、その状況を楽しんでいるように見えます。な、なんだ。こいつは!?


「随分、余裕があるようだが、俺は、村をむちゃくちゃにしたお前に対して遠慮するつもりはいっさい無い」


 不気味な笑みを浮かべていたエトランゼだったが、急に無表情になると、タナに言った。


「遠慮するつもりはない。嘘だね。僕を、殺さずに、剣先を近づけるだけで終わっているじゃないか。ひと思いに、やるべきだったんだ、君はね。だから、君は、守るべきものを失うことになるんだ」


 エトランゼは、視線をタナの後ろの方で泣きじゃくっている男の子に移す。その、邪悪で、薄気味悪いエトランゼの瞳を見て、タナは嫌な予感で胸が締め付けられます。


「まさか、男の子を」


 タナは、間髪入れずに男の子を振り向く。タナの一撃で地面に倒れ込んでいた小さな竜が、突然、動き出し、再び姿を消すと男の子の近くの建物に突っ込んでいく。その直後、建物の下部が激しく爆発し、建物が崩れ落ち男の子を襲う。


「さあ、選べ!!僕を倒すか、子供を守るか!!」


 どうする、どうすればいい!!くそ、考えてる暇なんかない。


 タナは、気づいた時には、男の子の方に、駆け出していました。魔法を使う暇もなく、ただ、男の子の方に全身全霊で向かうと、男の子を突き飛ばします

 そのおかげで、男の子は崩壊する建物に巻き込まれることはなく無事だったのですが、タナは、犠牲となり建物の下敷きになってしまった。


「愚かな選択だね。君は、僕をやることを選ぶべきだったんだ。君の誤った選択のせいで、僕も倒せず、子供も救うことができない。なんとも滑稽な話だ」


 瓦礫の山をエトランゼが歩きながら、泣きじゃくり、恐怖で足が震えて身動きの取れない男の子に少しずつ近づいていきます。


「止めろ、来るな!!来るなよ!!」


 男の子は、涙目になりながらエトランゼに向かって叫ぶ。ですが、当然、エトランゼが歩みを止める気配はない。


「いい反応だよ。ほんとは、さっきの攻撃で、君を直接、攻撃することもできた。だけど、そうしなかったのは、君を一人にさせて、恐怖する姿を見たかったからなんだ」


 エトランゼがそう言った直後、彼の足元から手が勢いよく出てきて、右足首をぎゅっと掴み取られる。


 なんだ。


 さすがに、右足を掴まれたエトランゼは歩みを止め、足元を見ます。すると、タナが瓦礫の山から突然、顔を出す。


「一人と言ったな。まだ、私は終わってなどいないぞ。剣士の誇りをかけて絶対にお前を男の子の元にはいかせない!!」


 タナを見たエトランゼは、苛立ちのこもった表情を浮かべる。


「しつこいな、お前......」

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