二十一之剣 「銃撃」

 エンゲツは、魔力を感じる方向に銃を向け覗き込みます。ですが、すさまじい速さで魔力の移動しているため、なかなか、姿をとらえることができません。

 そこで、エンゲツは長年の経験で積み重ねた感覚を頼りにターゲットの動きを予想し、ターゲットが来るであろうポイントにあらかじめ銃を動かし覗き込む。


 そして、ついに。

 エンゲツは、森を駆け抜けるソラの姿を捉える。


 なかなかのスピードだ。俺じゃなければ、捉えることすらできないだろう。だが、相手が悪かったな。悪いが、ここで始末させてもらう。


 ソラの動きに沿って銃の照準を合わせ、ゆっくり引き金に指を移動させると、ぎゅっと力を入れる。

 辺りに響き渡る強烈な轟音とともに放たれた弾丸が一直線にソラの方向に進み襲う。

 エンゲツは、確実にターゲットを仕留めたと思い、笑みを浮かべるが、慎重なエンゲツは、念のため仕留めたかどうかを確認する。


 いない。確かに、命中した感覚があったが、はずしたか。どこにいった。


 ソラに玉が命中していないことに、エンゲツは少し驚いています。それもそのはず。彼は、百発百中の男。放てば、必ずターゲットに命中させてきたため、自分が外した事が信じられなかったからです。


 いた。次は、必ず当てる。


 再び、エンゲツはソラを捉える。ソラに照準を合わせ、弾丸を放つと、今回は、しっかりとターゲットを射抜く瞬間を見届ける。


 カキン!!


 なんだ、何が起こった。


 エンゲツの放った弾丸は、寸分の狂い無く、ソラの方向に進んでいました。

 ですが。

 弾丸は、ソラに到達する寸前で、音をたて突然、消失する。


 玉が消えた。バカな。どんな、からくりだ。


 エンゲツは、玉が消失を原因を知るべく、銃を連射します。


 当たらない。


 まただ。


 また、当たらない!!!どうなってる!!


 もう一度、うってみるか。


 次はあたったか。いや、また、消えた。


 もう一度。


 火花。もしかして。


 エンゲツは、銃に玉を詰め込み、再び、放った後、弾丸が火花とともに、消失する瞬間を見て、頭によぎった可能性が正しかったと確信する。


 おいおい、嘘だろ。そんなのありか。


 あいつ、銃が当たる直前に、超高速で動く俺の弾丸を剣で斬っていやがる。


 ソラは、常に周りの魔力に気を配り、エンゲツの攻撃に気づいていました。魔力のこもった弾丸を自分たちに到達する前に、瞬間的に背中の剣で切り落とすことで攻撃をふさいでいたのです。やはり、ソラの速さは、並大抵ではありません。


 ここまで、俺の弾丸を防がれて、気分が悪いね。全く......。面倒だが、次で終わらせる。なーに、大丈夫だ。痛みはない。一瞬で灰となって消える。ただ、それだけだ。


 エンゲツは、銃に大量の魔力を送り込む。銃の先端には、一点に凝縮された魔力が高エネルギー体となり熱を帯び膨張する。


 あばよ。人間。さすがに、この攻撃は、剣では防ぎきれまい。


 そして、引き金を引き、一気に膨大な魔力を解き放つ。


 ゴオオオオ!!!


 森全体を震わすほどの、破壊音が轟く。それに、あたり一面に衝撃波が伝わり、嵐のような強風を発生させています。風で、森の葉は、散りどこかに飛んでいき、森に響く衝撃で、鳥が一斉に天高く飛んでいきます。

 まるで、巨大な光の矢で、射抜かれたかのように、森の木々は一瞬にして、消し飛ぶ。まさに、超光速。さすがに、ソラでも、かわすことはできないか。


「かわす必要もねーよ」


 瞬きすら許されない刹那。それは起こった。

 森を駆け抜けていたソラは、立ち止まり、迫り来るエンゲツの放った高エネルギー体に目を向ける。

 剣は、背中の鞘に収まったまま。剣を抜く気配もありません。ソラは、あわてた様子もなく、落ち着いている。取り乱している様子は全くない。

 ソラは、剣を抜くことなくエンゲツの攻撃に飲み込まれます。その直後、激しく爆発し、ソラのいた辺りの地面が、粉々に打ち砕かれ、砂埃が舞う。


 射抜いたか。砂埃が、舞ってよく見えない。


 次第に、砂埃は風にのって消え、ソラの姿が見える。ソラは、無事だ!!生きています!!それどころか、それ程、ダメージを受けず、右手を上げ立っています。


 なっ。


 ありえない。こんなことあっていいはずがない。


 俺の一撃を右手だけで......。


 エンゲツは、驚きのあまりソラから、目を離してしまいます。慌てて、再び、ソラのいた場所を見ますが、姿はありません。


 まずい、つい、目をそらしてしまった。くそ、奴がいない。


 魔力の位置からして、このままだと、カゲツの所に行ってしまう。


 あの強さ。おそらく、魔王様がおっしゃっていたあいつに間違いない。だとしたら、やばい。


“カゲツ、聞こえるか!!カゲツ!!”


 エンゲツは、カゲツの頭に直接、話しかける。二人の間では、このテレパシーで、やりとりを行っています。


“なんだ?取り込み中だぞ。エンゲツ。目の前の獲物を狩ろうとしているいいところなんだぜ”


 カゲツは、エンゲツの心の声を感じ取り、答える。


“そんなことは、どうでもいい!!聞け、カゲツ!!いま、すぐ、そこを去れ!!”


“そんな、焦ってどうした......”


 カゲツは、エンゲツとのやりとりをする最中、後ろで、気配を感じ、振り向く。


「お前は、誰だ?」


 カゲツは、後ろに立っていた人物に問いかける。そして、その人物は口を動かします。


「俺は、ソラ。かつて、剣神と呼ばれた者の名だ」

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