二十二之剣 「挑発」
「ソラ......お前が」
カゲツは、そうつぶやくと、不気味な笑みを浮かべます。ですが、ソラは、そんなカゲツを見てはいません。まっすぐ、カゲツの後ろに倒れているタナを見つめています。
「おいおい、俺のことは無視か?」
「少し、黙れ」
「黙れだと、この俺に向かって」
はっ。
「タナ、大丈夫か?」
いつの間にか、ソラは、カゲツの後ろにいるタナのもとまで移動しています。移動する所作が全く見えません。
いつの間に俺の後ろに。気づかなかった。気づいた時には、すでに後ろに移動していた。
カゲツも、ソラの動きが認識できなかったらしく何が起こったのか分からず、いきなり何者かに瞬間冷凍されたかのようにぴたっと動きが止まる。
「ソラ、来てくれたんだな......すまない、俺は、魔族たちを止めることも、森や妖精たちを守ることもできなかった。俺は、ここの妖精たちに救われたんだ。大好きなんだ、ここの妖精たちのことが。だから、頼む!!ソラ!!あいつを倒してくれ!!」
「ああ、約束する。タナは、ここで、ゆっくり休んでおいてくれ」
すっかり日が沈み込み、月光が照らされる静寂の森をソラは見渡す。
土の上に横たえる妖精たち。
荒々しく砕かれた大地、木々。
いたるところにこびり付く異臭、血液。
辺りの光景を見て、自ずと、ソラの拳に力が入ります。
「そろそろ、話していいか?」
カゲツは、耳に小指を入れてほじりながら、ソラに言う。どうやら、カゲツは話し終えるのを待っていたようです。カゲツは見た目によらず、空気は読めるのかもしれません。
「かまわないが、一つ聞きたいことがある」
「なんだ?くそったれ」
「妖精を襲ったのも、タナを襲ったのも、森をめちゃくちゃにしたのもお前がやったのか?」
「そうだ」
「なぜだ?」
「逆に問おう。道端に生える植物を踏みつけることに、自分の周りに飛び交う虫を排除することに理由をいちいち、考えたことがあるか?」
「お前にとって、それ程の価値しかないのか。タナも、妖精たちも」
「力こそがすべてなんだよ。力がない奴は、それだけで、罪深い。だから、力をもってねじ伏せてやったんだ。あいつも、あいつも、あいつもな」
「ただ、それだけの理由で」
「いいことを教えてやるよ。力ってのは、何かを破壊するためにあるんだぜ。持っているだけでは、何の意味もなさない。使ってこそ、意味があるんだよ。こういうふうにな!!」
“土”
エンゲツは、魔法を使い、ソラの不意をつく。話している最中に、いきなり、魔法による攻撃とはなんて奴なんだ。
エンゲツの魔法で、針のように鋭い岩が、地面からソラの背中めがけて伸びて襲いかかります。ですが、さすが、ソラ。後ろを振り向くことなく片手で背中の剣を持ち攻撃を防いでいる。
「どうした。力ってのは、何かを破壊するためにあるんじゃなかったのか?俺は無傷だぜ。それとも、お前が脆弱ってことなのか?」
「ふっ、ふざけるな!!」
カゲツは、ソラの挑発に苛立ちを爆発させています。顔を真っ赤にして、全身の魔力が一気に高まっていきます。
魔力の上昇とともに、カゲツの肉体に、地面から生成された岩がへばりつく。肉体は岩で覆われ、まるで、岩の鎧を着ているようです。
いよいよ、本気を出してきたカゲツ。ソラは、そんなカゲツに勝つことができるのでしょうか。
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