剣神復活編

二十之剣 「ソラ」

 眩い光が徐々に消えてなくなり姿を現したソラ。やせ細っていた腕、足、胸、腹あらゆる身体の部位は、エレムの魔法のおかげで以前の太く強靭なものに戻っています。


 婆さん、千年もの間お疲れ様。必ず村を救ってみせるよ。俺に託してくれた婆さんの思い、無駄にはしない。


 ソラは、握っていたエレムの両手をゆっくり床に置き、立ち上がる。エレムの体は、魔力を失ったことで、一瞬で土となり、床に広がります。

 ソラは、小屋の扉に手をかけ、外に出ようとした時、テナが話し始める。


「エレムは、あなたに力を使ったのね」


「ああ」


「分かってるわね。もし、あなたが魔族たちに負けたりしたら、私、あなたを一生許さないんだからね!!」


「ああ、分かってる」


「絶対、勝ちなさいよ!!」


「婆さんに、村を守るって言ったんだ。必ず守ってみせるよ」


 そう言うと、ソラは、目を閉じ、辺りの魔力を感じ取る。エレムから、魔力を与えられたソラは、三年前の状態に戻っただけではなく、さらに魔力の質が高まっています。以前よりも、広い範囲で正確に、相手の魔力を感じ取れるようになっている。


 二つの大きな魔力を感じる。ここから北に一キロの地点に一人。東に一キロ地点にもう一人か。それ程、遠くはねーな。


「それじゃあ、行ってくるよ......」


 ソラは、小屋の扉を開け外に出ると、思いっきり地面を蹴り、駆け出していきます。


 いってらっしゃい。勇者さん。




 ※※※



 なんだ、俺、生きてる。確か俺は、魔族たちに襲われてーー。


 タナは、左肩を負傷し、地面に倒れたのは事実。ですが、その直後、運良く、近くにいた妖精たちに助けられ、茂みの中に身を隠していた。


「大丈夫か?魔族たちに襲われてたみたいだけど」


「大丈夫だ。それより、魔族たちは?」


「幸いにも、俺たちを見失っているみたい。でも、見つかるのは時間の問題かもしれない」


「静かに」


 タナは、遠くの方で、魔族と戦った時に感じた禍々しい魔力を感じ、妖精たちに小さな声で叫ぶ。


「ああ、どこだ。どこいった。あの剣士と妖精ども。見つかれねーな」


 カゲツの声です。辺りを見渡し、探しているようですが、顔は笑っています。どうやら、遊び半分で探しているようだ。


「おい、出てこいよ!!くそったれども。出てこないなら、しゃーねーな。こいつがどうなってもしゃねーぞ!!」


 カゲツは、見せつけるように右腕を上げる。その手には、妖精の頭が握りしめられています。頭部を握りしめられている、妖精の背中には羽根がありません。

 そう、タナが助けようとした妖精です。逃げようと、必死にもがきますが、抜け出せそうにありません。


「逃げだそうとするんじゃねー」


 カゲツは、妖精の頭部を握りしめる手にぎゅっと力を入れる。


「あああああーーー!!!」


 妖精は、カゲツに頭部を握りしめられる激痛で、思わず叫び声を出す。


「こりゃ、いい。見せつけるにはちょうど、いいかもしれねーな。もっと叫べ。叫べよ」


 カゲツは、手の力を緩めることなく、頭部を絶えず握りしめる。


「許さねー、あいつ!!」

「救わないと。仲間を」

「じっと、なんてしてられないわよ」


 この様子を見て、タナの近くにいた妖精たちが耐えかねて、茂みから仲間を助けに、カゲツの方に飛び出します。


「おっ!?さすが、くそ虫ども。光に群がる虫のように寄ってくるぜ」


“土”


「仲間を返せ!!!......っぐ!?」


 地面から、針のように鋭く尖った岩が、突然まっすぐ伸びてきて、一人の妖精を貫く。


「まず、一人目と」


 タナは妖精たちが襲われる光景を目の当たりにして、心が揺れる。


 やめろ......。


「仲間を傷つけるんじゃねーよ!!」


 妖精の一人が、魔法に使いカゲツに攻撃を加えようとするが、その前に妖精の背後から、鋭利な岩が襲う。

 力つきた妖精は、羽根の動きが止まり、地面に落ちていきます。


「二人目。あと、一人」


 やめてくれ......。


「うあああっっっっ!!!」


 妖精の最後の一人が、次々と倒れていく仲間を見て、自暴自棄になりながらカゲツに襲いかかる。ですが。


「っぶふ!?」


 なすすべもなく、最後の妖精も、カゲツに襲われ、地面に倒れ込みます。


「これで、三人目と。なんだ、もうおしまいか。つまんねーな」


 一人残されたタナ。傷が深く身動きがとれるような状態ではありません。ただ、目の前の悲惨な光景を眺めることしか、できないでいます。


 なんだよ、この光景。


 誰か、誰か助けてくれ!!


 誰でもいい。誰でもいいから!!


 その時、タナの中で、ある名前が瞬間的に浮かびます。

 そして、どうしようもなくなったタナは、考える余裕もなく、その名前を叫ばざるをえませんでした。気づいた時には、腹の底から、心の底から、名前を叫んでいました。



「ソラ!!!!!!!!!!!」


 ーーーーその直後。


 なんだ......この魔力は。すさまじい速さで、カゲツの方に向かっている。


 タナとカゲツがいる場所から、少し離れた所で、エンゲツはただならぬ魔力の動きを感じていた。すぐさま持っていた銃を構える。


 カゲツの元に行かれる前に、俺が始末するーー。

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